歪曲骨家。

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私立永遠星学園高等部生徒会資料18

十八冊目

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「さぁ、生徒会書記の、お出ましだ。」そういえばえんま、着替えたか……? 恐る恐る振り返ると、すでにえんまは制服に着替えていて。早着替えだな。

理事長の話が一時停止し、ざわめきが一層大きくなる。時が止まったかのような、はたまた早送りされているかのような、不思議な感覚に囚われた。

「えー、どうやら生徒会長が着いたようなので。私の話はこれで。」理事長が簡潔に自分のターンは終わりだと告げ、ハゲた頭を下げて壇上から降りる。俺が来るまでの場繋ぎだったのか、理事長の話。森もひどいことするな。

理事長が階段を下り切ったのを見計らって、えんまを連れ壇上にあがる。マイクスタンドからマイクを取り、「おはようございます。」まずは挨拶。体育館中から挨拶が返ってくる。それを聞き終えてから再び話し始める。

「みなさんに大事なお知らせがあります。」ちら、とえんまに目配せをし、続ける。

「今日から地獄谷えんまさんが、我が生徒会のメンバーとして正式に任命されました。」パチパチと、まばらに拍手が起こり始め、やがて手を打つ音だけが体育館を埋める。

拍手が消えかかる頃にえんまにマイクを手渡す。「なんか喋って。」こく、と頷きマイクを手に取る。それからすぅ、と小さく息を吸い、透き通るような特徴的な声で話し始めた。

「この度生徒会書記を担当させていただくことになりました、地獄谷えんまです。よろしくお願いします。」ぺこ、とお辞儀をしてマイクを俺に返す。

「生徒会からは以上です。」簡単に話を締めくくり、壇上を降りる。えんまも後についてきた。森のアナウンスが入って、「これで本日の朝礼を終了いたします。」1年生から順番に教室に帰っていく。俺も入り口脇に置いておいたカバンを取って歩き出す。生徒会メンバーも椅子を片付け、それぞれの教室へ帰る。

「会長、今日も遅刻。」森がじろっと俺を睨んでくる。

「ちげーよ、今日はちゃんと時間通りだったっての。」「どこがですか。」「まぁ、結果的には遅刻になっちったけど……。」いい加減腕時計でも買おうか。

「結果が全てです。」もう遅刻しないでください、と釘を刺して森は先に行ってしまった。「あー、森まってーっ。」紙が森の後を追いかけてぱたぱたと走っていく。

「あの二人仲いいよなぁ。」「そう?」えんまに真顔で返された。

「あの二人、付き合ってるらしいですよ。」横から白水が顔を出して言う。

「「え、そうなの?」」えんまとハモってしまった。それにしても衝撃の事実である。

「わたしをどこの情報通とお考えですか?」そんな、白水には珍しいドヤ顔で言われても。白水が情報通だったなんて初耳だぜ。口に出したら泣き出しそうなので自粛。

「ふーん。」紙はともかく、森は紙といても普通の態度だよな。そっけないやつだもんな。あと時間にうるさい。え、じゃあなんで付き合ってるんだあの二人。ふたりっきりになると性格変わるとかだったら面白いよな。ふはは。子犬っぽい森を想像して思わず心中で爆笑。やばい。面白すぎる。

となりを見ると、えんまはすでにこの話題から興味を失ったようで窓の外を見ていた。何か面白いものでもあるのか?

「何、見てんの。」「あれ。」そう言ってえんまが指さした先には、グラウンドが広がっているだけだった。いや、正確には何かがいた。目を凝らすとそれは人のようで。それが少しずつこちらに近づいてきている。冷やした塩水から塩の結晶が析出していくかのように、徐々に徐々にはっきりと姿を現していく。ゆったりとした足取りで、地を踏みしめるように。その人影は、うちの制服を着ている少女だった。黒髪を二つに縛り、赤い縁のメガネをかけている。巻くにはまだ早いクリーム色のマフラーをたなびかせ、生徒玄関の方へ歩を進める。

ふと、少女がこちらを向き目を細めて笑う。中学生のような幼さをたたえた笑顔だった。数秒笑顔で停止し、また歩きだした。時間が止まったかのような、不思議な気分だ。

廊下は、しんと静まり返っている。森や紙、白水は先に行ってしまったらしい。残されたのは俺とえんまだけだった。

「転校生かな。」「どうだろ……。でも、なんだか不思議な感じ。」えんまも同じことを感じていたらしい。何かが変だ、あの子。

「だよなぁ。」「なんだろ、マフラーかな。妙にたなびくのが遅い気がする。」そこまでは見ていなかったが、確かにそんな感じだった気がする。それで時間が止まったような気がしたのかもしれない。

「変な事が起こらなきゃいいけど……。」えんまがいつになく心配そうに言う。

 

あの少女もきっと何かトラブルを巻き起こす。これは勘だけど、妙に確信が持てる。

まったく、連日イベントがあったんじゃ俺の身も持たないぜ。

 

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「ただいま戻りましたぁ。」さらさらと砂が積み上がるように形を持っていく。桃源は長い黒髪を弄びながら自らの主と対峙する。続いてもう一人が、砂のように現れた。こちらは桃源とは対照的に、鮮やかな金色の髪。長身で、首までジッパーを上げて顔を半分隠している。

「収穫は。」落ち着いた、中性的な声。すだれ越しなので姿を拝むことはできないが、シルエットは小柄だ。

「思った以上に強者ですよー。俺の能力も見破られちゃってー。」拾ってきた鉈で肩をとんとんと叩きながら言う。たとえ上司であっても、その態度には変化が見られない。いつもの間延びした口調で淡々と話を続ける。

「あと、赤毛のガキ。あいつぁオレの武器を特定しましたよぉ。」

「へぇ。意外とやるね、『無印』も。」驚いた様子でも声の調子は変わらず、ポーズだけが感情をあらわにしているようで違和感を感じる。正直この人と話すのは苦手だ。

「鉈。ちょっと見せて。」「あいあいさぁ。」右手に持っていた鉈をたくさんいる側近のうちの一人、すだれの近くにいる側近に渡す。オレみたいな下っ端は教祖に物を手渡しすらできない。上下関係の激しいことで。側近はすだれの向こうに入っていき、花鳥に鉈を渡す。

花鳥はしばらくオレの鉈を眺めてから、そっとそれを指で撫でる。拭き取らずに乾いた血液がパラパラと欠け落ちる。

欠け落ちた血液は花鳥の足元で跳ね返って、また床へ落下する。てーん、てーんと欠片がバウンドする音が部屋に響き、有り得ない残響を繰り返して消えていく。

花鳥は鉈に残った血液をれろ、と舐め、ゆっくりと味わうように上を向く。

「面白いの、見つけたよ。『無印』にも。」淡々と、面白くなさそうに言う。

「でも、任務は失敗だよね。君の能力もバレちゃったんでしょ。」そう言って鉈をぽいっと投げ捨てた。

支えを失った鉈は、重力に従って落ちていく。しかしその運動は途中で側近によって妨害される。鉈を受け取った側近はそれをまた俺に投げ寄越す。側近達は自分の仕事は終わったとばかりに、花鳥の後を追って部屋を出ていった。オレは自らの武器を左手で受け取り、斜め後ろに立っている金髪に向き直る。ひょろっとした動作で、金髪はオレと目を合わせる。

「帰るぞ、阿弥。」阿弥と呼ばれた金髪はこく、と頷くとオレに向かって左手を差し出す。しばらくその左手を見つめていると、徐々に足首から先が消えていく。首あたりまで消えたところで阿弥は自分に左手を向ける。次第に阿弥の体も消えていく。

 

今回の任務は失敗とも取れる成功に終わったようだ。ただ、オレにとっての成功かどうかは怪しいけれど。これだけのことで済んだのは赤毛のガキのおかげだよな。いつか礼を言っておこう。

 

もう、会うことはないだろうけど。

 

そっと自分の右側に目をやる。

 

今まで鉈を握ってきた右手は、視覚的ではなく物理的に、

消えていた。

 

 

十八冊目fin.

桃源さん個人的に好きです。

すいません挿絵がまちまちで。。。

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