歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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私立永遠星学園高等部生徒会資料22

二十二冊目

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チビだチビだと言われ続けて17年。ついに僕よりも小さいやつを見つけた。3組の、柏 木白っていう生徒だ。スケ部に入っているらしい。そしてエースらしい。スケ部ってなんだろう。その柏ってやつは、僕よりも2センチ程小さいと思う。これは快挙だ。今までいろんな学校をえんまと一緒に転々としてきたけれど、どこにも僕より小さいやつはいなかった。女子でもだ。おまけにえんまは背が高いほうだし、いつも比べられてるみたいで嫌だった。

でも、これで僕も『一番小さい』の汚名を返上できる。

クラスが違うからいつもは無理だけど(僕は1組)、これからなるべく柏と並ぶようにして歩けばいいんじゃないか。我ながらいいアイディアだ。明日より作戦を決行しよう。まずは柏に接触だ。

 

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「おい、森!」「……、紙か。」「ぼーっとしてんじゃないぞ!」「考え事してただけ。」「とかカッコつけてるが実はぼーっとしている森くんであった。」「ちげーよ。」「では考え事の中身をどうぞ!」「お前のこと。」「きゃー。」

紙ちゃんは森のとなりに並んで歩くんです。森は紙ちゃんよりちょこっとだけ背が高いです。ポーカーフェイスの自慢の彼氏さんです。

「で、本当は?」いたって真面目な顔をして森に訊くんです。森はふっと笑って、「紙は変なとこ鋭い。」こっちに顔を向けるんです。笑顔は幼くてキュンキュンです。

「あの、転校生。」「あぁ、ミケミケとかいう。」朝礼で元気いっぱいだった子です。関西弁だったにゃー。

「あいつ、怪しいよ。」「確かに。メガネマフ子だったし。」「めがねまふ……?」キョトンとした顔も可愛いです。もう、森は無知なのですから!

「メガネにマフラーしてるってことだよ。」「そこ?」呆れたように眉を歪めて森は言うんです。え、メガネマフ子なところじゃないの? 紙ちゃん驚きです。

「森は何が怪しいと思ったのさ。」「オーラ?」「なぜに疑問形。」「いや、気がしたってだけだからさ。」「ふーん。でも森がそういうこと言うの、珍しいよね。」「紙の影響かも。」「違うでしょー!」ぷんすかです。「まぁ、怪しいってとこは一致したよね。」「ん。」紙ちゃんは真面目モードへの切り替えが早いのです。

「聞いてみれば会長のクラスに行ったっていうし。後で聞いてみるよ。」「うむ。」

「じゃ、授業始まるからまたな。」「うん、ばいばーい!」片手を上げてふりふりです。森はカッコつけなので片手を上げただけです。そこも可愛いです。

ひとしきり森の可愛さについて考えたら、教室への道を進みます。紙ちゃんは11組なので、廊下を2本渡った手前です。すでに時計の分針が15を指しているのです。ちょっと急ぐのです。

紙ちゃんは生徒会書類整理なので授業に遅れるわけにはいかんのです。

 

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転校生は5組に来たようでござる。木白は3組なので会う機会はあまりなさそうでござるな。せいぜい廊下ですれ違うくらいでござろう。しかし木白は2学年に在籍する生徒の顔を全員分覚えているので、見慣れない顔があればそやつが転校生ということでござるな。朝礼でも紹介はしていたでござるが、2年は一番後ろ故、顔が見えなかったのでござる。

と、いうわけで転校生を探すべく休憩時間を利用して廊下を歩いているわけでござる。転校生は隠れ身の術が得意のようで、1限から今(5限)の休憩の間ずっと探しているのでござるが、見つからないのでござるよ。むぅ、確か転校生は、マフラーを巻いていた気がするでござるな。マフラーなんて目立つもの巻いてたら、すぐわかるはずでござるが……。「これは、5組に張り込んでたほうが早いかもでござるな。」

そう思い立ち、5組への道を歩んでいたのでござるが。

刹那、背後から風圧を感じたので振り返って見やると、なんと、転校生らしき人物が猛スピードで駆けてきたではござらんか。

 「転校生をものすごい剣幕で襲ってくる人のどこら辺があやしくないんですかぁ!!」何やらわめきたててござる。襲ってくるということは後ろから誰かに追いかけられているということでござるな。後ろにいるのは……。

「いえわたしこれでも生徒会副会長なんですけど今日は個人的に御狐さんに用があるんですよ!!」なんと。白水ではござらんか。一体何があったでござるよ?

考え込んでいるあいだにも二人は走り続けて、廊下の突き当りで姿が見えなくなってしまった。ただでさえ人が多い廊下を、猛スピードで駆けていったのだから訳もない。本当に、どうしたんでござろう。

まぁ、転校生の顔を確認する、という当初の目的は果たしたのでござるから、あまり深入りしないでおくでござるよ。

転校生、メガネマフ子でござったなぁ。

 

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そして、御食はほとんどの授業を寝て過ごし(その度に怒られ)、放課後である。

「ミケミケ、行くぞ。」となりで突っ伏している御食を揺する。さすがにもう寝疲れていたらしく、御食は意外にもすぐ起きた。えんまも呼んで、3人で歩き出す。

「生徒会室って、どこにあるん?」「ここの廊下の突き当たり。」廊下の奥を指差しながら言う。「角部屋か。日当たり良さそうやなぁー。」お前は狐改め猫か。「残念ながら耐震工事のためブルーシートで覆われてるの。少しは日差しも入ってくるけど。」えんまが最近知った事実を嬉しそうに言う。「それは残念やぁ。」そう言うなり立ち止まって、ほわぁ、とひとつあくびをする御食。マフラーがぱた、と動く。それを見どけて、また歩きだした。

「ほら、ここ。」生徒会室の扉の前につくと、えんまが真っ先に口を開いた。

それから俺はカバンから生徒会室の鍵を取り出し、南京錠を開けにかかる。カチャリと小気味いい音を立てて錠は外れた。中に入ると、2日前の湿気はどこへやら、からりとしていた。ブルーシートの隙間から差し込む頼りない夕日を遮って電気を付ける。

「戸閉めて、カバンはどっかテキトーに。」言いつつ俺はカバンをパイプ椅子の上に放る。えんまと御食も、それぞれパイプ椅子に自分のカバンをのせる。

「じゃ、見せてもらおうか。」「なんかエロく聞こえるんやけど……。」「何言ってるの。」「ここまで来てもうざいな、お前。」「なんやと!?」三者三様に意見を述べて、最後に御食がため息をつく。

「恥ずかしいからあんまやりたくないんやけどなぁ。」御食はそう言ってメガネを外し、カバンがのせてあるのと同じパイプ椅子にのせる。

「後ろ向いとってくれへん?」「別にいけど……。」俺とえんまはそろって後ろの黒板に視線を移す。黒板にはこの間の生徒会の時の議題が残ったままだった。

1分ほど経っただろうか。後ろから蚊の泣くような声が聞こえてきた。

「もう、ええよ……。」後ろを振り返ると、御食が立っていた。一見さっきとなんら変わらない。しかしよく見ると、耳が狐のものになっている。元から細めの瞳孔はほとんど線になって、眼球は黄金色を輝いている。さらにマフラーがなくなって、ふさふさとした尻尾が……。

「御狐さん、スカート……。」尻尾がスカートの後ろをめくり上げる形になっていた。俺はさすがに言い出せなかったが、えんまが俺の気持ちも代弁してくれた。

「えっ、うわ!!」御食は慌てたようにスカートを尻尾の上から押さえつける。とたんに顔を真っ赤にして、「だからやりとうなかったんや!!」わめきたてると、耳と尻尾が引っ込んで、目がこげ茶色に戻り、マフラーが再び首に現れた。

「御狐さん、モノホンだったの……。」えんまがやや残念そうにつぶやく。

「ところでそれって耳と尻尾出て終わり?」「完全に狐にもなれるけど……。」御食はもじもじしだして、言葉の先は聞き取れない。「けど?」「けど……、ほら、狐って全裸やんか……。」「ああ、なるほど。」えんまが先に納得の意を示す。俺もやや遅れて納得。つまり、変化を解除した時に全裸になるってことだな。

「話は変わるけど、どうして伊達メガネなんてかけてたの?」えんまがかねてからの疑問を口にする。

「瞳孔に目が行かないよう……に?」「なんで疑問形なんだよ。」「母上が持たしてくれはったから……。」「ああ、」そうだろうな。『躯持ち』の親ともなれば過保護にもなる。

「話は戻るけど、そのマフラーはなんなの?」えんまが着々と質問を進める。

「これは……尻尾を擬態させとんのや。」「しっぽ。」えんまが呆けた顔になる。ちょっと愉快だ。にやける顔を必死に押さえつける。

「まぁ、マフラーなら揺れててもおかしくないからな。」最初から怪しいと思っていた俺らには、気づかれちゃったけど。

「夏もマフラーなの?」「いんや、夏はタオルや。」「タオルって……。」風呂上がりのオヤジかよ。牛乳瓶が似合いそうだぜ。「春や秋はどっちにしたらええか迷うねん。」「いっそのこと帽子とかにはならないの?」「帽子はちょっときついかもなぁ。」御食は苦笑を漏らしながら、エセ関西弁で応答する。

と。鍵を開けっ放しだった扉が開け放たれた。開けっ放しというか、内側からは鍵をかけられないんだが。

「会長。」扉を開けたのは生徒会会計、木林森だった。

「森……。」なぜここに。今日は何かある日だったか……?

「紙ちゃんもいるよー!」森の後ろから紙も顔を出した。いつもどおりのハイテンションである。

森は室内を見回し、ある一点に目を留めた。視線の先には御食が立ちすくんでいる。森はつかつかと御食に歩み寄り、同じくらいの目線から睨みつける。右手は隠すように背中へ回している。

「な、なんですか?」「ミケミケ、そいつ1年。」「会長は余計なこと言わないでください。」「お、おう。」森はかなりお怒りのようだ。何があったというのだろう。

「あなた、どこから転校してきたんですか?」「ぅ、それは……。」「答えられないんでしょう? あなた朝礼の時も出身校を言っていませんでしたよね。」「……。」御食は言い返す言葉がないかのように黙り込んでしまった。

「森、ちょっと言い過ぎじゃない?」「紙は黙ってて。」「ご、ごめん……。」室内は緊迫した空気に包まれる。しばらくの間沈黙が続き、森が再びそれを破る。

「今まで、学校に通ってこなかったんでしょ?」怒りに任せるようにまくし立てる。

「……、ごめんなさい。」御食はうつむき、しゃがみこむ。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」御食は頭を抱えひたすらにごめんなさいを連呼する。「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………。」

「森……。」紙が森を肘で小突く。森は御食から顔を背ける。

「ああ……、う………うぅうう……あ、うぅう………、う……。」御食はごめんなさいを言うことさえやめ、泣きだす。耳を塞ぎ、自身の最大声量で叫ぶ。閉じた瞼の隙間からぽろぽろと涙がこぼれ落ち、マフラーは揺らめく。

えんまがそんな御食に歩み寄った。御食の背中にそっと手のひらを置き、優しくさする。マフラーの揺らめきは少し治まるが、耳をふさいだ手は未だ離れない。

 「御狐さんは、学校に行けなかっただけなのでしょ?」えんまは御食の声を遮るギリギリの声量で、しかしはっきりと耳に届く声で話す。

「行けなかった……?」思わず繰り返すが、すぐに納得した。妖狐は『躯持ち』の中でも特別といっていい存在で、先天性、つまり『生まれつき』しかいないのだ。御食も幼少期から妖狐だったわけで、能力の制限の仕方が身に付いていない子供が一般社会に出るとどうなるか。想像せずとも結果は目に見えていた。

「うぁあっ……ぅう………う、……うっ…………。」御食の泣き声が消え入るように治まり、耳から手が離れる。涙はまだ止まっていないが、目を開いている。黄金色がかった、瞳孔の細い目を。

えんまは御食の手を取り、両手で包み込む。子供に話して聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ここに居るのは、みんなあなたの仲間。同じなの。」「おな、じ……?」御食はえんまの顔を不思議そうに見つめ、首をかしげる。言葉はまだ嗚咽混じりだった。

「生徒会に居るのは『躯持ち』、それから私と、カマギリ。」御食は森の方を見る。森は今まで隠していた右手を(顔は背けたままだが)御食の顔の前に突き出す。御食は森の右手を見て思わず息を飲む。

「俺だって、苦労してきたんです。あなたみたいに、先天性じゃないけど。」御食が森の右手の木に手を伸ばす。葉をなでて、「ごめんなさい。」もう一度謝った。

「謝れば済むと思わないでください。」森は御食に向き直り、続ける。

「本当に謝罪の気持ちがあるなら、これからは向き合って生きてください。」森は右手をおろし、後ろを振り返る。そしてそのまま、歩き出す。出入口の扉の前で一度立ち止まり、こちらを振り返らないままに森は言う。

「経歴詐称ぐらいは見逃してあげます。お騒がせしました。」森はまた歩き出し、紙がそのあとを追う。

「御食ちゃん先輩、すいませんでしたっ!」紙もまた出入り口の扉の前で立ち止まり、振り返って頭を下げる。2秒ほどそうしてから、部屋を出る。

「ミケミケ、ごめんな。森も悪気があったわけじゃないんだ。」森に代わって御食に謝る。御食は泣きはらした目をこちらに向けて、笑った。

「なんで鎌切くんが謝んねん。」いつものように口を開けて、エセ関西弁で言う。それからまた少しうつむくと、

「地獄谷さんも、鎌切くんも、ありがとうな。」独特のイントネーションで、なぜか礼を言ってきた。「うち、小学校の2年生から学校行ってへんのや。今までずっと家に引きこもってきたんやけど……『躯持ち』が生徒会やってはる高校がある言うて聞いたから。」目尻に残った涙をカーディガンの袖で拭いながら、御食は続ける。

「高校に行くってだけでなんか変わった気になっとったけど、中身は何も変わってへんかった。現実から逃げてばっかやった。……でも、もうちゃうよ。」スカートを手で払いながら、立ち上がる。こちらに背を向けて、ブルーシートから差し込む夕日に向かって。

「うちは、変わった。」パイプ椅子の上のメガネを取り、かける。

「ここに来て、泉さんや、木林さん、鎌切くんや地獄谷さんに会って。みんなのおかげで、気づけた。」マフラーがはた、と波打つ。さっきまでの乱暴な動きではなく、子犬が尻尾を振るような、そんな動作だった。

「だから、ありがとう。」御食は、また笑顔になる。初めて見たかもしれない、御食の本当の笑顔。

「「どーいたしまして。」」だから、俺達も精一杯の笑顔で返す。ブルーシートの隙間からかすかに差し込んでいた夕日も、今はもう見えなくなっている。部屋の蛍光灯だけに満たされた空間では、御食の眼の色がよく見える。

 

 

「で、うちはなんちゅーポジションや?」「え?」「生徒会や、生徒会。」「なんだよ、強くなったんじゃなかったのかよ?」「それとこれとはまた別の話やろ。」「森とも仲悪そうだし……。」「許してくれはったよ。」「えー……。」「もはや反応すら面倒くさがられた!?」「だってお前、うざいし。」「直球!!」▼御食はツッコミにまわった。えんまが今まで閉じていた口を開く。

「入れてあげたら?」「天使が降臨した!」「えー……。」「30秒前と全く同じ反応!?」「どうしてもダメか?」「そこまで言うならお前、スケ部入れば。」「確かに。生徒会には空き椅子がないもの。」「さっきの発言は一体何だったんや!?」「スケ部なら生徒会とも接点多いし。」「スケ部も変な奴多いしな。」「へへ、変な奴!?」「木白となんか気が合いそうじゃん。」「そうね。」「二人で納得しないで!!」

 

今日も平和に終わった。ああ、平和だよ。

これから始まる未来に比べれば。

 

二十二冊目fin.

あい、長かったです。6000文字だって。わお。

なんかいい感じに切れそうなところがなかった。んです、はい。

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