歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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私立永遠星学園高等部生徒会資料24

二十四冊目

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「れおーん。ぬく飯ー。」「普通に飯って言ってくれよ……。」「ねーちゃんの生ぬるい愛が詰まってるぞー。」「嫌すぎる……。」「なにおうー。早く降りてこいー。」

やりかけてた宿題を閉じて、階段を下りる。冷え込んできたなぁ。裸足に当たるフローリングの階段板が冷たい。階下へ近づくにつれて段々夕飯の匂いが強くなる。麻婆豆腐な気がするぞ。嫌な予感だ。

ガラリと階段とダイニングを隔てている扉を開けると、姉貴はすでに席に着いていてなぜかキラキラした目をこちらに向けている。

「え、何。」「れおん、あたし麻婆豆腐だけ作ったから!」「ああ、うん。」つまり、麻婆豆腐以外はないということだな。俺が作れと。

「しゃーねーなー。」炊飯器をパカっと開けると、中には一人前のほかほかご飯。それを茶碗によそう。冷蔵庫をパカっと開けて、中から卵とニラ、ピーマンを出す。フライパンを熱して油を注ぎ、ご飯を投入。ジュージューといい音をたててご飯があったまる。それを木ベラでかき回して全体に油を絡ませる。茶碗に卵を割り入れてカチャカチャと溶く。ピーマンとニラを適当に刻んで、卵に投入して軽く混ぜる。それをフライパンに流し入れ、木ベラでかき回す。ある程度卵が固まったところで木ベラから菜箸に持ち替えて、フライパンを縦にじゃんじゃんやる。ご飯が宙を舞い、短い旅を終えてフライパンに帰還する。数回繰り返して火を止め、茶碗にあけ、皿を乗せてひっくり返す。

なんちゃってチャーハンの完成だ。

皿を持ってテーブルに戻ると、姉貴が振り向いて笑う。

「チャーハンだぁ!」「麻婆豆腐だしな。天津飯作れるほどの材料はなかった。」「うふふー、チャーハンで十分!」「あっそ。」

チャーハンの皿をテーブルに置き、席に着く。麻婆豆腐とチャーハンを半分ずつよそって、自分の前に並べる。それから手を合わせる。

「「いただきます。」」箸をとって食べ始める。有り合わせのチャーハンだったが、食えないほどではない。なかなかの出来だった。麻婆豆腐はやたら辛い。思わず水をとって飲む。姉貴は笑顔で食べている。なぜなら姉貴は辛党だからだ。姉貴にしてみれば四川豆腐ぐらいがちょうどらしいが。そもそも四川豆腐って麻婆豆腐と何が違うんだろ。辛さとか、調味料とかか?

「そーいえば姉貴、さっきの漫画、なんてタイトル?」「さっきの? ああ、あれねー。ちょっと待ってて。」言うなり姉貴は席を立って、リビングのソファにほっぽり出してあった漫画を持ってきた。

「『夕闇九音』作、黒白 ザイク(17)だってー。」姉貴が差し出してきた漫画を受け取って一番最初のページを確認する。確かに、『夕闇九音』というタイトルだ。その下には応募要項らしきものがずらずら書いてある。ペンネーム『黒白 ザイク』、読み『こくし ざいく』。あ、これ『こくし』って読むのか。にしても『ザイク』なんて変わったペンネームだな。本屋ですぐ見つかりそうだ。(17)っていうのは年齢だろうか。ってことは17歳? 俺と同い年ってことになるな、これを描いたの。

俺はそれだけ確認して姉貴に漫画を返す。姉貴はそれを受け取ってテーブルの空きスペースに置く。そしてスプーンを持ちながらという危ない姿勢でコップを持って、案の定口に届く前に落ちた。

「わっ!」気づいたときにはもう遅くて、コップの中の水はテーブルにぶちまけられ、コップはコップで床へのバンジーを成し遂げる。もちろん命綱なんてない。

水はみるみるうちに広がって、テーブルにあった漫画もあっという間に水に浸ってしまう。コップは盛大な音を立てて砕け散り、欠片をあたりにばらまく。

「姉貴、ティッシュティッシュ!」「さんきゅー!」姉貴にボックスティッシュを手渡し、漫画を引き上げる。かなりびちょびちょだ。拭いただけでは間に合わないかもしれない。姉貴に渡した箱からティッシュを2、3枚引き抜き、とりあえず目立つ水を拭う。あとはアイロンに頼るしかないか。

「姉貴、これコピーだよな?」漫画を指差しながら訊く。「多分……。」姉貴は自信なさげに言う。姉貴がこうならきっと部下はしっかりしてるはずだ。コピーぐらい取ってくれてると思いたい。節電とか節紙とか考慮してないで欲しい。

「俺これにアイロンかけてくるから、姉貴はコップどうにかしろよ。」姉貴の返事を待たずに漫画を手に物置へ向かう。物置はダイニングと階段のあいだのスペースにある。物置からアイロンとアイロン台を引っ張り出して床に設置。階段に引っかるがあまり気にしてはいられない。がたがたと揺れる台の上で漫画にアイロンをかける。

考えてみれば変な絵ヅラだが、これは緊急事態だからしょうがないんだ。

ジュージューと音を立てて漫画の水気が湯気になって撒き散る。ほかほかとしたその湯気はなんだかデジャヴで。ついさっきチャーハンをひっくり返していたときの音に似てるなぁ。

「うし。」ちょっとヨレヨレにはなってしまったが、なんとか乾燥が完了した。これでザイクさんの将来は安泰だ。少なくとも選考の日までには。でも、きっとこの作品なら通ると思う。素人の俺にはなんだってすごく思えてしまうが、一応プロの姉貴だって掘り出し物って褒めてたんだ。

アイロンとアイロン台を物置にしまって、漫画を手にダイニングへ戻る。

「姉貴ー、片付いたかー……?」ダイニングへ戻っても姉貴の姿が見えない。「姉貴ー。」呼びかけるとテーブルの下の方から「うぅ……。」といううめき声が聞こえてきた。覗き込んでみると、姉貴がうずくまっている。よく見ると右手の人差し指を押さえていた。コップの欠片で切ったのだろうか。

「姉貴?」「れおーん……。指切っちゃったよう……。」「やっぱりな。」「やっぱりって……うわ痛い。」「絆創膏取ってくるから待ってろ。」「はぁーい。」

俺は救急箱があるリビングの方へ向かう。確か絆創膏は、2段目だったはずだ。

救急箱を開くと、思った通り2段目に絆創膏の箱があった。まだ箱は新品のようだが、なんだかパッケージが古臭い。というか日焼けでほとんど見えなくなっている。絆創膏なんて使う機会、そうそうなかったんだな。俺も姉貴も。

パリッと音のする箱を開けて中の絆創膏を1枚取り出す。粘着テープがにちゃにちゃなんてことになってないことを願うばかりだ。箱を救急箱に戻し、ダイニングに戻る。

姉貴は相変わらず床にうずくまって指を押さえている。姉貴に絆創膏を皮をむいた状態で「ほらよ。」差し出し、「貼れないんだけど。」そして拒否された。

仕方なく裏紙をペリペリはがし、姉貴の指に巻きつけてやる。患部に当たったガーゼがみるみるうちに血液を吸い込み、テープ越しにもわかるほどに赤く染まる。

「欠片が埋まってるかもしれないから、明日病院行ってこいよ。」「はぁーい。」

姉貴は子供みたく返事をして、立ち上がる。コップの処理の方は済んでいるようだ。

「れおん、あたしこの指じゃ感想書けないからさ、代わりに書いてよー。」「はぁ?」全くこの姉は事あるごとに仕事をサボろうとする。さっきも麻婆豆腐だけ作って放置だったし。

「大丈夫、文面はあたしが考えるから。」「じゃぁ代筆って最初から言えよ。」「その言葉が浮かばなかった!」「大丈夫か。」

結局そのまま夕飯を食べ終え、俺は姉貴の感想の代筆をさせられた。俺が字を書くたびに「それなんて読むの?」とか「れおん、字綺麗だねー。」とかいちいち突っ込んできて書き終えるのにだいぶ時間がかかってしまった。

「これでいいか?」「オッケーオッケー。あたしが自分で書くよりいい感じだよー。」

とことん他力本願な姉である。

 

 

二十四冊目fin.

はい、姉の話でした。

姉は書いていて楽しいです。

名前が全くと言っていいほど出てこないのでお忘れかもですが、綴香ですよ!

タイガーです!

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