歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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私立永遠星学園高等部生徒会資料26

二十六冊目

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私は、何を演じているんだろう。

こんなことをして何になるって言うんだろう。弟のため、そうだけど、これは正しいことなのかな。いいように転がされているだけじゃないのかな。私は私でいたいのに、でも、私の中の一部が邪魔をする。じめじめとした真っ黒な雫が、じわじわと心の奥に広がって、そして覆い尽くされる。

滴る雫は、やがて、穴を空けていく。

 

拙者は………。

 

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「生徒会長、至急玄関までおいでください。お客様がお待ちです。」ふと、校内放送のスピーカーからこんな言葉が聞こえてきた。生徒会長とはもちろん俺のことで、中等部の方じゃないとは思うんだけど。お客様、という言葉が引っかかる。平日の真昼間から俺を、わざわざ学校まで来て尋ねるやつなんているのか? 少なくとも家族はみんな出かけているし、今日は学食で食べるって言ってきたから弁当でもないし、伝えたいことがあるならメールか電話でいいはずだし。

俺は不思議に思いながらも席を立ち、教室を出る。

「カマギリ。」「えんま、どした?」後ろから呼びかけられて振り返ると、えんまがついてきていた。

「私も一緒に行く。」「呼ばれたの、俺だけだし大丈夫。」そう言うとえんまは少し困ったような表情になって、続けた。

「『生徒会長』って、言ってたでしょ。つまり肉親や、少なくとも知り合いじゃないってこと。名前を知らなくて、ここの生徒ってことだけ知ってるとしたら?」えんまは眉をひそめたまま問いかけてきた。

「花鳥の部下の可能性がある、ってことか。」俺は苦笑して、えんまの考察力に感嘆する。校内放送のたった一文からここまで読み取るなんて、定期テスト1位は伊達じゃないな。

「そう。」えんまはにっこり笑っていう。話しながらも歩いていたので、玄関はもう目と鼻の先だった。玄関といっても俺たちが普段使用している生徒用玄関ではなく、客人やお偉いさん方が使用する正面玄関だ。

 

そして俺たちは、そこに立っていた人物の驚愕せずにはいられなかった。

 

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「あああああああああ、載ってる……。」男は机に突っ伏して唸る。突っ伏した目の先には、先日発売された漫画雑誌、『月刊スターダスト』のあるページ。

読者の投稿漫画を批評するページであるそのページには、『ぶっちぎりで金賞をかっさらった期待の新人、黒白 ザイク』とある。まさか受賞するなんて思っていなかった。受賞を受け入れる心の準備が出来ていない。

金賞……。男、ザイクにとってはこの言葉は喜びではなく、むしろ、苦痛だった。金賞といえばこの雑誌では、即デビューを意味する。なぜデビューが苦痛かといえば、何しろ投稿した作品、『夕闇九音』は2年半かかって完成したのだ。月一で刊行される雑誌の締切に間に合うはずもない。それに酷く体が弱い自分は、徹夜などしようものならその後三日寝込む勢いだ。

明日、編集部に行ってちゃんと断ってこよう。それか不定期連載にしてもらおう。

こういうのってアポ取らないとなんだっけ……。

 そばに置いてあった携帯を手に取り、雑誌に掲載されている編集部の電話番号をプッシュする。程なくして、若い女性の声が聞こえた。

 

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如来は、楓が好きなんだ。

なんで、って訊いたら、葉の形が好きなんだ、って。

楓の葉って先が五つに分かれてるでしょ、いっぱい葉をつけた楓の木は、世界中の人々の手みたいでしょ、って。

世界の人々がみんな仲良しみたいでしょ、って。

争いは嫌いだけど、争いをなくすためには争わなきゃいけない。

僕らはいつだって矛盾の中で生きている。

矛盾を正そうとすればするほど、自ら矛盾に溺れていく。

だから、受け入れなきゃいけない。

 

矛盾に溢れた世界、争いの意味を。

 

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「柏さん!」前を歩く小さな背中に声をかける。

「ぬ?」古風な返答を返し、振り向く柏さん。適度に細められた目には警戒の色など少しも浮かんでいない。

「ちょっと、いいかな。」「何でござるか?」柏さんはまた古風というか、なんというかな返答を返しこちらに駆け寄ってくる。予想通り。柏さんは時代劇が好きみたいだ。えんまからいろいろ訊いておいてよかった。たしか、『ひっさーつ、仕事忍者』だったかな、えんまもよく見てるんだよね。

「僕、スケ部にはいりたいんだけどさ。」何気ない感じで切り出すと、柏さんはオーバーなリアクションで手のひらを打ってみせる。

「ああ、そんなことでござるか。だったら今日の放課後にでも来てくれればいいでござるよ。特に申請なんかは、要らないでござるから。」

「そうなんだ、ありがとう。」にっこり笑ってお礼を言う。笑顔は苦手だ。変な顔になってないかな。こんなことならえんまと一緒に笑顔の練習をしとくんだった。

「どういたしまして。」柏さんは僕なんかよりずっと上手な笑顔で手を小さく振ってから、廊下の雑踏へ消えていった。

今日の放課後、スケ部の部室は突き当りだったかな。えんまにメールしとかなきゃ。

 

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「お前……っ!」玄関に佇んでいた人物、桃源は俺の声に顔を上げる。

「ちゃろー、ひっさしぶりぃ。」左手を軽く上げて桃源が言う。相変わらず間の抜けた口調。全身黒の服に、長くうねる黒髪。鉈は持っていない。

「なんでまた……。」「あー、だいじょぶ。構えなくってオッケーだよー。」桃源が両手を顔の前で振る。そこで俺はやっと気づいた。

桃源の右手の、手首から先がない。

「お前、手……。」「あぁ、これぇ? 花鳥の奴がねぇー。」桃源は苦笑を浮かべて右手の断面をさする。その断面はまるで、最初から何もなかったかのように綺麗だ。

「花鳥? お前んとこのトップだよな。なんでそいつが……。」

「あぁ、オレはクビになってきたんだぁ。」「クビ?」えんまが訝しげに訊ねる。

「そのまんまの意味さー。お払い箱って事ー。」桃源はからからと笑うが、目の端には涙が滲んでいる。よほど辛いのだろう。

「オレも一度はあいつに仕えた身だからねぇ。こうも簡単に切り捨てられるとー……。」桃源は滲んだ涙を左手でぬぐい、改めてこちらを見る。

「だから、復讐ってわけよぉ。」

「オレもお前らに協力するー、お前らもオレに協力するー。」桃源が妙案だとばかりに顔を歪める。間の抜けた口調が全てを台無しにする。

 

「丁重にお断り。」えんまがズビッ、と桃源の提案を断ち切る。桃源には悪いが、俺もえんまに同感だ。

「え、なんでぇ!?」桃源は本当に驚いたようで、のけぞった拍子にバランスを崩して尻餅をつく。

「だってなぁ……。」えんまを見る。えんまもこっちを見て、ため息をつく。「ねぇ……。」顔にはうんざりと書いてある。

「「ザコいし。」」しまいにはハモっちゃう始末。桃源にはかなりのダメージを与えたみたいだ。尻餅を付いた姿勢から立ち上がれないでいる。顔面は蒼白どころか土気色だ。大丈夫か。

「ざ、ザコいって……! 最初はお前らも苦戦してたじゃんかよぉ! それをなんだよ、まるでオレが弱いみたいなぁっ! 協力してやるって言ってるのにぃ!! オレだってあっちにいた身なんだから、内部のこと、少しくらいわかるってのにぃ!!」まくし立てる桃源の言葉にえんまが眉を動かす。

「どのくらい、わかるの?」その口調は真剣味を帯びていて、ああ、やっぱり教祖なんだな、と思う。敵対教団は潰しておくに限る。いつ教徒に被害が及ぶかもわからないし、そもそも一番怪我をしてるのはきっとえんまだ。

「どのくらいって、そりゃ大したことはわからねーけどよぉ。」桃源はバツが悪そうに目を伏せる。相変わらず尻餅を付いたままで、一向に起き上がらない。

「協力してくれたら、話すぜぇ。」伏せていた目を上げて、えんまに問いかける。

「……カマギリ、生徒会室、いい?」えんまが目線だけをこっちに向けていう。桃源の要求を呑むことにしたらしい。

俺はポケットから鍵を取り出す。

えんまが決めたことだ、俺が首を突っ込む問題じゃない。静かに首肯する。

「交渉、成立っとぉ。」いつの間にか立ち上がっていた桃源がニヒルな微笑を浮かべる。笑うと目の下の刺青が生き物のように歪んで、まるで主人と一緒に笑っているように見える。

生徒会室への階段を上る。

確実に花鳥に近づいていると信じて。

 

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「はーい、『月刊スターダスト』編集部でーす。」聞こえてきたのは若い女性の声だった。貫禄のありそうなおじさんの声を想像していたザイクは面食らって、数秒停止してしまった。「あのー、今日はどうされましたー?」やや病院じみた問いかけで、はっと我に返る。

「あの、おれ、黒白 ザイクって言うんですけど」「あー、ザイクくん! 君すごいよね、まだ17だって!? 弟も感激してたよ、久々の大当たり。ありがとねー!」ザイクの名前を聞いた途端にべらべらと話し始めた。よほど喜ばれているらしい。余計に断るのが心苦しくなってきた。

「あの、賞のことでお話があるんですが……。いつお伺いしてもいいでしょうか?」「あーあー、固くなんなくていいよ! 私は基本いつでもいるから、ザイクくんの暇なときにでも来てくれればいいよ! 日曜日はいないけど、電話で呼び出してくれればいいし!」「そうですか……、あの、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」女のマシンガントークにドギマギしながらなんとか質問を繰り出す。

「あ、ごめん言ってなかったね! あたしは鎌切 綴香! スターダストの編集長をやってます、よろしく!! 編集部は初めてかな? 受付であたしの名前、言ってくれればわかってくれると思うよ。じゃぁ、またね!」こっちが返事を挟む間もなく慌ただしく電話は切れた。忙しかったのだろうか。電話する間が悪かったかな。反省しつつ手元のメモ帳にボールペンを走らせる。

カマギリ タイカ。

編集長だと言っていたが、声は若そうだった。実力派ということか。すごい人に応対してもらっちゃったのかも。

それにしても、カマギリって……。弟とも言っていた。

 

まさかな。

聞き覚えのある苗字から考えをそらす。

今のザイクにはいかにして月刊連載を断るかを考えるので精一杯だった。

 

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「はぁーぁあ。」山よりは高いが海よりは深くないくらいのため息をつく。

「どったんだよ、風月。」3mほど離れて高下駄の手入れをしていた側近、去来が自分の放ったため息に反応する。話し方こそ挑発的だが、実は教祖思いなのだ、なんてことはもちろんない。正直な子だ、と思う。嫌いではない。

「いやー、桃源っていたじゃん。あいつさぁ。」去来の問に応えるべくついこの間までいた下っ端の話を持ち出す。

「あぁ? あの黒ずくめのロン毛か。」最初は思い出せなかったようだが、やがて悪口を含む呼び名で返してきた。

「そう。あいつ、裏切ったよ。うちの教団。」自分の立ち上げたこの教団は、来る者拒まず、出る者殺す、という規則を守ってきたが、桃源の件は別だった。桃源は文字通り負けてきたのだが、面白い『無印』の報告も持ち帰ってきたから特別に能力を奪っての追放だけだったのだが、どうもそれがいけなかったらしい。

案の定桃源につけておいた見張りの報告では、『蜘蛛の糸についた』とあった。

下っ端だし、大した情報も持っていないだろう。能力も自分がこの手で奪ったのだし。新しい能力が芽生える可能性は否めないが、気にする程ではない。

「ふーん? 別にいーんじゃねぇの? あーしが楽しめればなんでもいーよ。」高下駄の手入れを終えたらしい去来は、履き心地を確かめるように5mほど歩いて戻ってきてから言った。調子は良好らしい。滅多に見せない笑顔からそう読み取った。笑顔といっても目つきがもとより悪い上に口の端を釣り上げただけの、人を小馬鹿にしたような笑みだったが。

「そう。なら良かった。自分は去来を一番信頼しているからね。」

「まーしとけよ。ぜってーぶちのめしてやっから。」去来はそう言うと自分に背を向け、高下駄を履いた足でたーんたーんとタイルの敷き詰められた床を蹴る。壁で跳ね返った反響がやや遅れて耳に届く。

 

「そろそろ次の刺客をつかわそうかな。」

自分の手元にはまだまだカードがある。その中の一枚を引き抜く。引いたカードを裏返して、名を呼ぶ。

「次は君の番だよ、世亞。」

 

二十六冊目fin.

はーい、読み方わからない人がいっぱい!

黒白 ザイク →こくし ざいく

去来 → さき

世亞 → ぜあ

やっと次の刺客がやってくるよ。

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