歪曲骨家。

創作小説置き場です。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

携帯でちまちま書いてたものたち。4

 

+--+--+--+--+--+--+--+
何もしたくない日が、たまにある。

何となく、何もしたくない。気怠さとは少し違って、でも本質はさして変わらないのだろう。

ベッドの上で天井を睨み付けながら、いっこうに起き上がろうとしない自身の身体を恨めしく思う。
何もしたくない日が、たまにある。
まさに今日だった。


【雨降りの日の私とわたし】


『雨だから代われ。』ボーッとした頭のなかに声が響く。私だった。
「あー……うん……。」私に返事を返しながら、わたしはぎゅっと目を瞑る。窓のない、真っ白な部屋を思い浮かべた。部屋の輪郭がはっきりしていくに連れ、私の存在が明確なものになっていく。
『はい、こーたいっ。』私が差し出す手に触れると、わたしがこの部屋の住人になる代わりに私が外に出る。もっとも姿が変わったりはしない。あくまでわたしは私であり、私はわたしだからだ。
「くぁああ……。」私はベッドの上で大きくのびをした。自分のことを客観的に見るというのも、最初こそ違和感は覚えたものの今では馴れてしまっていた。
「今日は久々の雨だな……。早く梅雨になりゃいいのに。」私が出てくるのは基本的に雨の日だけだから、私は多分、雨が降るのを待っていると思う。
「お前の思考は私にも筒抜けなんだから、今日くらいはつまんないこと考えないでくれよ。」いつもは私の思考がわたしに筒抜けなことを棚にあげて、私はのたまう。
『じゃあ少し……眠るから。』そう言ってわたしは白い床に横になり、ゆっくり目を閉じた。

+--+--+--+--+--+--+--+

「うお、こんなに溜まってやんの。」ほとんど山じゃん、と呟いて自分が眠っていた時間の長さを知る。あいつは大体1日に1枚ずつ描くから、紙束の量からして2ヶ月は眠っていたことになる。
「また、台詞のない漫画ばっか、描きやがって……。」積み上がった原稿用紙に絵は描かれていても、字は何一つ書き込まれていない。台詞を自由にいれて遊ぶ台紙みたいだった。

+--+--+--+--+--+--+--+

インクが乾かないうちに触ってしまったのだ。わたしは救いようのないくらい擦れて伸びたインクと、黒く染まった指の腹を交互に見つめた。いくら見つめてももとに戻ったり、穴が開いたりと言うようなことはなかった。どうやらわたしに穴を開けるほどの眼力はないらしい。別になくても困らないからいいのだが。
「このページは描き直しかなー……。」がっくりと肩をおとし、2分前の自分を呪った。

+--+--+--+--+--+--+--+

昔から絵を描くのが好きだった代わり、字を書くのは苦手だった。字で何かを表現すると言うことがとてつもなく難しく感じられて、作文や感想文はいつも白紙になってしまい、叱られてばかりだった。
絵なら、表現できるのに。
言いたいことがちゃんと言えるのに。
なんで、字なんてあるんだろう。全部、絵なら、いいのに。

窓の外では行き場をなくした雨の滴が、虚しく落下していた。

『知らないのか? 字だって絵の1種だろうがよ。』突然頭の中に響いた声は、わたしのような気もしたけど、別人な気もした。
「……え?」いきなりの展開に戸惑っていると、右手が勝手に動き出して机に積んであった世界史の教科書を手にとった。パラパラとページが捲られていき、茶色っぽいページで止まった。
『見ろ。象形文字だ。』そのページに描かれていたのは、鳥や皿の絵、そう、絵だった。
「これ、文字?」頭の中の声に問いかける。もう右手は自由になっていた。
『今は使われてないがな。』その声にわたしは少し落胆した。この文字なら、わたしも何か表現できると思ったのに。
『でもな、象形文字に限らずすべての文字は、絵を簡略化したものなんだ。』わたしを説得するように、声はゆっくり語りかけてくる。

『だから、嫌いになるなよ。字を、絵を。否定するなよ。』でも、やっぱり、字と絵は違う。そう思えてしまう。

『好きになるための手伝いならしてやるから。』

優しく微笑む、私の姿が、見えた気がした。

+--+--+--+--+--+--+--+

「……?」いつも、1枚ずつ描いている漫画。台詞のない漫画。その中の1枚に、台詞が書き込まれていた。
「うわ……字きったな。」恐らく私が書いたのだろう。つまりそれはわたしの字でもあるわけで、結果的にわたしの字が汚い。

妖精が杖を振りかざす場面に『はげろ!!』、少年が頭を下げる場面で『ウッソ~!!』、剣士が走る場面で『セールスしつけぇよ!!』。
なんとか読み取れたコマには、ふざけてるとしか思えない台詞が書き込まれていた。
「あのなぁ……私。」呆れ顔でため息をつくが、吹き出しの中の台詞を消すことはしない。
「どうせ、自分じゃ埋めないんだから。」

わたしはまだ、字を好きになれないでいた。

+--+--+--+--+--+--+--+

なんで、私は雨が好きなんだろう。私が代われと言うのは決まって雨の日だった。わたし自身さほど雨が好きではないから、私の思考はやっぱりわたしとはリンクしていないのか。

私はわたしで。
わたしは私なのに。

まるで他人みたいだ。

+--+--+--+--+--+--+--+

『あめ。』何となく、口に出してみる。私が外に出ているうちに目が覚めてしまった。
『雨。編め。飴。アメ。』同じ発音で、違う文字で、様々なニュアンスがある。同じ音なのに、意味によって字を書き分けなきゃいけない。
『やっぱり、難しいなぁ……。』
わたしの目からこぼれた滴は、行き場をなくして真っ白な床へと落下していく。

『難しいことだらけだ。』

+--+--+--+--+--+--+--+

いつもはふざけて吹き出しを埋めているけれど、今日は真面目に埋めてみることにした。
コマ1つ1つの動きを読み取って台詞を考える。既に描かれた漫画に台詞を埋めていくのは簡単ではなかったけれど、私はペンを止めなかった。
1つ1つ、丁寧な字で埋めていく。わたしが描いた、未完成の漫画。それを私が完成させる。わたしの努力が報われないのは、許せないから。

わたしは好きになろうとしてたんだ。わたしなりに頑張ってた。それを知らないやつがわたしを否定するのだけは許せない。
私だって字が得意なわけではないけど。

それでも。



「出来た。」

+--+--+--+--+--+--+--+

コツコツと溜め込んでいた漫画、今日はそのすべてに台詞が埋め込んであった。

ふざけていない、丁寧で真剣な字で。

私が、わたしのために書いてくれたのだ。字が好きになれないわたしのために。

その原稿用紙に触れると、自然と涙が溢れた。頬を津伝って落ちた滴が、原稿用紙のインクを滲ませる。

『なんで、泣くんだよ。』

違うの、悲しいんじゃない。違うんだよ私。

わたし、嬉しいんだよ。

「ありがとう、私。」

窓の外ではまた、行き場をなくした雨の滴が落下していたけれど、私はわたしに代われと言わなかった。



+--+--+--+--+--+--+--+

あれから頭の中に私の声が響くことはなくなった。
相変わらず字は苦手だけれど、以前よりは好きになれた気がする。

私にもらった原稿用紙は、まだ捨てられないでとってある。インクは滲んでるし、握りしめていたせいでくしゃくしゃになってはいたけど、紛れもなくそれはわたしの宝物だった。



私は、字が苦手だった。

スポンサーサイト

Comment

Add your comment

Latest

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。