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歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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私立永遠星学園高等部生徒会資料31

三十一冊目

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「……っ!」鎌切……やっぱこいつ、ただ者じゃねぇ!

おれはいきなり飛び込んできた非日常に戸惑いながらも、言い知れない興奮を抱いていた。ずっと憧れていた、自分には決して踏み込むことのできないと思っていた世界に、今自分は立っている。そのことが信じられなくて、もどかしい。

世阿と名乗ったフードの男は、爪をカチカチと鳴らしながらゆっくりと鎌切に歩み寄る。フラフラと危なげな足取りで、思わず心配してしまいそうになった。鎌切は腕を押さえながら半歩後ずさる。失血により意識が朦朧としてきたのか、こちらの足取りも危なっかしい。

……おれにはきっとこの状況を打破できるようなことは何も出来ない。だけど、それは鎌切も多分同じだ。なのに、おれは鎌切を前に立たせてしまっている。この状況では鎌切もおれも立場は同じにも関わらず、だ。

なぜ鎌切が狙われているのかはおれには分からない。理由があるのか、意味もないのか。それすらも分からない。でも、鎌切が狙われていると言うのなら、鎌切を前に立たせておくのでは敵の思うツボだ。

おれにはきっと何も出来ない。でも、それでも、今鎌切の前に立つことだけは出来る。

すくんでいた足を無理矢理に動かし、鎌切の前に立った。世阿は少し目を丸くする。鎌切の表情は見えないが、きっとびっくりしているだろう。しばらくは誰もが足を止め、静寂に身を任せる。緊張からにじむ汗は頬を伝って首筋に流れた。誰のものともつかない、息を飲む音が聞こえる。

始めに均衡を破ったのは世阿。身を屈めて真っ直ぐに跳ぶ。跳びながら器用におれをかわして、鎌切の方へ迫った。鎌切はそれに合わせて後ろに跳びすさるが、あと少しのところで間に合わない。世阿の手が鎌切の喉元にのびて、そして……

 

一瞬だけ時間が止まった。

 

黒く伸びた世阿の爪は、鎌切の喉元を掻き切る直前で急停止する。それを受け止めていたのは、この場にはまるで似合わない人物で。そもそも、おれには人物と呼んでいいのかも分からなかった。

「目には目を、歯には歯を。」静かに、まるで唄うように口ずさむ。

「なんで……。」鎌切は驚きを隠せない様子で口を半開きにしている。

「爪には爪を!」鎌切の疑問には答えず、その人物は少し手を捻る。世阿の黒い爪がさっきの爆発とは違い、塗料が剥がれるようにパラパラと力なく地面に落ちた。

「待たせてもうたな!」エセ関西弁は健在なまま、御狐 御食は振り返る。その目は、月の光を受けて黄金に輝いていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

別に尾行していたわけではない。断じて尾行していたわけではない。ただ家が同じ方向で、たまに……そうたまに後ろを歩いていたりはするが、尾行ではない。鎌切が珍しくクラスの男子と一緒に帰っているから興味をそそられたとかでは、絶対にない。

そうだ、尾行ではないのだ。信じて欲しい。

 

少し前。

鎌切たちの後ろを離れて歩きながら、例のごとく自分への言い訳を考えていた。後ろを歩くなと言われても、一緒に帰ろうと誘うことが出来ないのだから、仕方ないのだ。これでは恋する乙女みたいだが違うのだ。断じて違うのだ。

悶々と考えていると、なんだか前方で何かが割れるような音がした。この辺りは住宅街だから、どこかの家で皿でも落として割ってしまったのだろう。続いて叫ぶような声がする。皿を落として割った子が叱られでもしているのだろう。

ふと顔を上げると、いつの間にこんなに近付いてしまったのか、1ブロック先に鎌切たちの姿が見えた。鎌切はなぜか腕を押さえながら半歩後ずさる。気付かれたと思って近くの家の塀に隠れるが、鎌切は半歩後ずさった姿勢のまま動かない。気付かれたのではないのだろうか。

さらに首を伸ばして様子を見ていると、クラスの男子が鎌切の前に立った。何だろう。目を凝らすと鎌切たちの他にもう1人いることに気付いた。そのもう1人は、いきなり鎌切の方へ跳ぶ。

こうしてる場合じゃない。

 

素早く塀から離れて、直線を一気に駆ける。相手は武器を持ってはいないようだ。走りながら擬態を解いていく。マフラーはふわふわとした尻尾に、虹彩は細く、爪は長く鋭く。

 

鎌切と飛びかかった男との間に割り込んでその手を受け止める。

「目には目を、歯には歯を。」珍しく起きていた世界史で一番印象に残った一説を口ずさむ。

「なんで……。」鎌切は心底驚いているようだ。無理もない。

「爪には爪を!」うちが後ろを歩いているなど、鎌切はきっと知らなかったのだから。

 

後ろを歩いてたこと、許してくれはるかな。

とりあえず話をするのはこの男を退けてからだろう。格好つけた登場をしてしまったからにはこのまま帰るわけにもいかない。

男の黒い爪を、自分の手を捻ることで砕いた。思ったより脆く崩れたことに驚く。

勝てそうだなーと、なんとなく思った。

 

 

 

三十一冊目fin.

 

鈴本、見せ場奪ってごめんね。

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