歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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私立永遠星学園高等部生徒会資料32

三十二冊目
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

男は自分の爪が砕けたことに一瞬驚いたようだが、すぐに切り返して反対の手を差し向ける。重心を後ろにずらして回避、左手を突き出して男の腕を掻いた。男の腕に3本の線が刻まれ、赤い血がにじむ。男はすぐに砕かれた爪を再生成し、御食の後ろへ跳んだ。首を狙って両腕を同時に伸ばすが、届かない。御食の尻尾を使った重心移動は、人間相手には有効らしかった。
「……これ、キャットファイトって言うんだっけ?」鈴本が呆けながら鎌切に訊く。
「いや……なんか、違うだろ。」鎌切もまた呆けながら、鈴本に答える。御食の能力を見たことがあるとは言え、鎌切が呆けるのも無理はない。鎌切の中での御食のイメージはと言えば、『エセ関西弁のちょっとうざくて困ったやつ』だったのだから。それが颯爽と現れて加勢してくれたと思ったら、どうにもちぐはぐな感じがしてならない。
「能ある鷹は、爪を隠すってか……。」鎌切の呟きに鈴本も頷きを返す。が、思い直したように首を横に降る。
「……いや、鷹って言うか狐だろ。」それもそうだな、と返してからこれからどうするか考える。御食がやや優勢ではあるが、予断は許されない。一刻も早く状況を打開しなければならなかった。
周りにある武器になりそうなものは、砕けた植木鉢、こぼれた土、輪ゴムくらいだ。どれも投げて隙を作ることしかできないが、それで十分だった。
「鈴本、これ持っとけ。」鈴本に輪ゴムを手渡す。不可解な顔をされた。「間違えた。」輪ゴムを受け取り、植木鉢の欠片を渡し直す。欠片を構えて、水切りの要領で水平に投擲した。直後に土を掴む。
欠片はカーブを描きながら進み、反撃の一手を投じようとした男の手首に直撃する。そのせいで軌道がやや逸れて男がバランスを崩した。受身を取ろうとする男に駆け寄り、眼前に土をぶちまける。男は咄嗟に腕を突き出すが間に合わず、その目に土を食らう。
「目潰しじゃー……なんて。」手についた土を払いながら、男が受身も充分に取れず地面にくずおれるのを見た。すかさずうつ伏せに転がして腕を背中で組伏せ、身動きを封じる。
御食が爪を生成し直し、男の首筋にあてがった。
「えんまのとこのライバルの、だな。」正直教団名とかわからん。えんまのとこのも微妙だ。蜘蛛の……何か。
「『方舟』だ! そして俺様は世阿!!」男が無理な姿勢で頭だけをこちらに向ける。目は痛むのか固く瞑りながら涙を流していた。なんとも言えない光景だ。
「あ、そう。」男の名前は聞いたつもりはなかったが、べらべら個人情報をしゃべってくれた。
「少しは興味を示せ!!」言い切ったところでそろそろ首が限界なのか、頭を戻す。
「なんでえんまじゃなくて俺を? 間違えたとか?」
「俺様はバカじゃねぇよ!! チクショウこんな雑魚に……!」
「バカとまでは言ってねぇし。」
「とにかくなぁ、お前をぶっ潰せば教祖様は喜び給うんだよ!! 俺様は古語が使えるんだ! バカじゃねぇ那由多ァ!!」心底面倒な会話が展開されそうな気がした。しかもこの途中途中挟まれる『ナユタ』が気になって仕方がない。口癖なのか?
「だからなんでえんまじゃなくて俺が……。」俺を潰して教団にメリットがあるとは思えない。むしろえんまの校門付近での布教活動を取り締まっているのだから感謝して欲しいくらいだ。
「知るかボケナス!!」自分の首に爪があてがわれていることを忘れているかのような口の悪さだ。本当に忘れている気がする。
「知らないなら、もう用はないけど……。」そもそも別にこいつに構ってやる義理などない。
「役立たずじゃねぇよ!!」なんと言うか、いちいちうるさい奴だ。「情報提供有難う御座いましたぁー。」適当に流すことにした。教団の皆さんはいつもこいつの相手をしてるのか。頭が下がる。
「おっ、おう!!」何故か嬉しそうだった。

やっぱりこいつバカだな。


□■□■□■□■□■□
「教祖様のお見えだ!」廊下に程近い位置に陣取っていた白装束の男が、室内に向かい声を張り上げる。広くはないがざっと50名ほどを収容できるこの部屋は、いつも定員を越した人でごった返していた。
「皆さん、本日はようこそお越しくださいました……。」テーブルの下であらかじめ録音した音声が流れる。一言一言余韻を持たせた話し方で、なおかつ間延びしない、その匙加減を見極めるのはなかなか大変だった。信者の前に出た僕はそれと少しズレるように口パクをする。僕の存在に違和感を持たせ、神聖なものとするための演出だった。
「では早速、乾杯の儀と致しましょう……。」儀式は乾杯に始まり、乾杯に終わる。口パクとはいえ、僕も口が乾くからだった。
「聖なる水を……。」扉から新たに幹部が5人ほど部屋に入り、信者の持つグラスに水を注いでいく。むろん、ただのミネラルウォーターだ。味も人の心持ちで変わる。不思議なものだ。
ミネラルウォーターを注ぎ終わった幹部から部屋を去っていく。全員の幹部が外に出、扉がしまった。
「本日の清らかな糧に感謝を……。」僕がグラスを掲げると、信者達も同じようにグラスを掲げる。少し高い位置からみる無数の小さな水面は、照明の弱さも相まって儚げに輝いていた。この景色だけは何度見ても飽きない。
「乾杯……。」信者達は隣の信者とグラスを打ち付けて、それからミネラルウォーターを一気に飲み干す。僕もグラスに口を付けた。信者達が全員飲み終わった頃合いで幹部が部屋に入り、グラスを回収する。右から左へ、グラスの輝きが失われていく。ほんの数十秒ほどで総てのグラスが回収され、幹部が扉から去ると室内は静寂に包まれた。
僕は精一杯もったいぶって顔を上げる。

「では、我らが崇高なる……母君のお話を致しましょう……。」

□■□■□■□■□■□
「文句をつける訳じゃないんだけどね、ザイクくん。」鎌切さんの赤みがかった黒髪が顔を上げる動作とともに揺れる。弟の方とは違って、パッと見では赤毛が混じっていることには気付かないかもしれない。ヘアクリップで無造作にまとめてあるのが様になっていた。
「君の漫画は細かすぎだよ。」組んだ手の上に顎をのせて、同時にストローでココアを飲んでいるからか、威厳らしきものは欠片もない。
「細かいって……ストーリーがですか?」確かに2年もかかって練り上げたストーリーだ、作り込みが過ぎる部分もある。しかし愛着もあるので削りたくはなかった。
「違う違う。」鎌切さんはストローをくわえたまま、ココアに泡をたてて首を横に降る。一度に沢山のことを出来るんだなぁと、一瞬感心しそうになった。
「ストーリーは今の調子で全然問題ないんだけどね。君の場合細かすぎるのは絵。」ストローから口を離して、まるで悪戯を思い付いた子供のように笑う。鎌切さんは若いとはいえ僕よりいくらか年上なのに、時々少女のような幼さを見せる。だから弟の方が大人っぽく育ったのかなと、姉の世話をする弟を想像してちょっと笑った。
「絵、ですか。」正直、絵のことを指摘されるとは思っていなかったのだ。
「そう。あ、お姉さんココアおかわり。」返事のついでに通りかかったウェイトレスさんに追加注文をする。
「全部の絵を変えろって言うんじゃないの。使い分けね。」ココアを飲みきってしまった鎌切さんはお冷やにストローをさして飲み始めた。水がココアの粒子で白く濁る。
「夕闇九音も段々人物が増えてきたじゃない? 大量の人物を動かすのに大事なのはリズムなのよ。」こつこつと、テーブルを叩きながら水をぶくぶくと泡立てる。どんな二重奏だ。
「リズム……。」「細かい絵はもちろん君の持ち味だから活かして欲しいんだけど……。」「珠の中の珠より、石の中の珠ってことですね。」「そゆこと。」両手で丸をつくって、ピンポーンとまで言った。

「じゃ、来月も期待してるよん!」言い終わったところで到着したココアをものの数秒で飲みきってしまった鎌切さんは、「会議があるからお先にね。」と言ってココアの代金を置いて席を立った。

帰ったらすぐに原稿の見直しにかかろう。努力出来ることがあると言うのは、こんなにも嬉しいのだと気付いた。



三十二冊目fin.

 

お久しぶりです……絵ばっか描いてました←

ただ昨日はサクサク筆が進んで楽しかったです(*^ω^*)

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