歪曲骨家。

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私立永遠星学園高等部生徒会資料34

三十四冊目

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紙と出会ったのはほんの数ヵ月前、入学式のことだった。

まだ折り目のついた制服を着た300人ほどの生徒が、体育館の中でクラスごとに並んでいる。森は1組なので一番右側の列に並んでいた。1組には『あ』行の人が少ないらしく、『き』である森が3番目に並んでいる。中学では10番目前後だったので大躍進だった。

長い長い校長の話にあくびを噛み殺しながらも耳を傾けていると、なぜか隣から視線を感じる。少しだけ首を左側に向けると、隣の女子と目があった。すぐに目を逸らしたかったが、向こうが一向に見つめるのを止めないので何となくこちらも逸らしがたい。

「何か用?」声を潜め、口の動きを最小限にして訊ねる。すると、隣の女子はハッとした顔で「ううん、ごめん。」と言って前に向き直った。人の顔を見つめながら心ここにあらずとは、どういう神経をしているのだろう。いつまでも横を向いていてもしょうがないので森も前を向いた。

校長の話はまだ続いている。

▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽
体育館で隣だった女子は教室でも隣だった。男子に『あ』行が少ない代わり、女子は少なくとも5人はいるようだ。

「ねぇ。」左の二の腕を突っつかれた。隣の女子が頬杖をつきながらこちらを見ている。
「何?」頬杖をつきながら訊ねると、女子は少し笑ってから答えた。
「糸氏紙っていうんだけど、そっちは?」女子は頬杖をついているのとは反対の手で自分を指差しながら言う。女子はどうやら紙という名前らしい。
「木林森。」俺の名前はフルネームだと少々発音しにくい。自分の名前なのに噛みそうになるから、自己紹介の類いは苦手だった。
「木林くん。発音可愛いね。」紙が目を細めて笑う。気に入ってもらえたようだ。
「糸氏さんは変わった名前だね。」「そう? でも確かに、あんまり聞かないかも。」「俺も人のことは言えないけど。」「名簿見たときはキバヤシくんだと思った。」「やっぱり?」「きっと担任も間違えるよ。」「それ、中学の時散々やられた。」「教科担任1人1人に間違えられるんだよね。」「そうそう。段々面倒臭くなって諦めるんだよね。」「紙達、似た者同士だね。」名前ひとつでかなり盛り上がってしまい、担任が教室に入って来るまでずっと話していた。

その後ホームルームでクラス全員の自己紹介を聞いて、紙が隣町の中学出身であることを知った。俺が住んでいる地区や紙が住んでいる町は電車通学になる。もしかすると既にどこかで顔を合わせていたかもしれない。

席に戻ってきた紙に笑いかける。紙は自己紹介の出来が不本意だったのか、苦笑いにとどめた。

▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽
紙に「生徒会やるんでしょ?」と言われたのは2学期になってすぐのことだった。前期の生徒会役員が引退して、後期生徒会役員の募集が始まったからだ。俺の右手の甲を指差して、「躰持なんだよね。」と声を潜めて言った。俺の場合は隠そうとも一目瞭然なのだが、紙は気を使ってくれているらしい。

ふと、引っ掛かるものがあった。
「紙も?」躰持が生徒会をする、ということを知っているのは1年ではあまりいないはずだ。一般人で知っているとしたら相当に耳が早いか、上下の繋がりが大きいのだろう。その他にこのことを知っているのは事前に知らされた者、つまり躰持本人だけだ。

少し間があいて、紙がゆっくりと頷く。「紙も躰持。」それからちょっと上目遣いになって、「放課後、生徒会室に行かない?」と訊ねてきた。

少しだけ迷ったあと、「うん。」と頷く。「どうせすることもないし。」1学期中ずっと帰宅部として活動していた森としては、放課後の時間を潰せると思うと結構魅力的な提案だった。

チャイムが鳴って授業が再開すると、紙はいそいそと席に戻る。紙は授業を真剣に聞いているようだが、森は板書も何もはかどらなくて、放課後起こるはずの変化に思いを馳せていた。

□■□■□■□■□■□
髪を乾かしていると、その乾きにくさに寒さの訪れを感じていた。乾かしても乾かしても微妙にしっとりしている。そろそろ髪を切るべきだろうか。ちょうど明日は土曜日だし、考えてみてもいいかもしれない。

「れおんー、ドライヤー貸してよー。」間延びした姉貴の声が背後から響く。姉貴の髪から滴る雫が俺の髪を濡らす。
「もうちょい、もうちょっとだけ……。」最後の仕上げとばかりに勢いよく乾かすが、姉貴が濡らしたところは局所的に乾いていなかった。が、仕方がない。「ん。」大人しく姉貴にドライヤーを渡した。
「ありがと。」姉貴はドライヤーを受けとると早速その長い髪を乾かしにかかる。俺と同じく苦戦している姉貴を尻目に、冷蔵庫に向かった。用意したグラスに冷蔵庫から取り出した麦茶を注ぐ。風呂上がりの冷えた麦茶は格別だ。一気に飲み干してグラスをすすいだ後、ぼんやりと明日の予定をたてる。

髪切りに行こう。

□■□■□■□■□■□
次の月曜は雨で、生徒達の表情も心なしかどんよりしている。さすがにえんまも今日は校門に立っておらず、注意する手間が省けたことに思わず笑みがこぼれる。えんまが生徒会に入ってからは一層先生達から指導を押し付けられている気がしてならない。えんまは広報活動を行う点以外では非常に優秀な生徒なので先生達も迂闊に注意することが出来ないのだろう。おまけにバックには怪しげな宗教団体が構えているのだ。怖くないはずがない。

教室に入ると、雨の日特有の会話が繰り広げられていた。「じめじめしてウザい」「髪型キマらない」「体操服乾いてない」なとがそうである。教室全体が眉をハの字にしている中、一人だけ何食わぬ表情で窓の外を眺めているのがいた。肩につくくらいの長さの髪をハネさせることもなく真っ直ぐにしていて、トレードマークの赤ハチマキを結んでいる。



『肩につくくらいの長さの髪を』?



俺は荷物を自分の席に置いてから窓際の席に駆け寄り、依然として窓の外を眺めているその横顔に向けて言った。
「おはよう、えんま。」声をかけるとえんまは窓の外からこちらに顔を向ける。
「おはよう、カマギリ。」言ってからえんまは何かに気づいたように目を見開いた。

それから俺達はほぼ同時に口を開き、


「「髪切った?」」同じ台詞を口にした。


「俺そんなに切ってないんだけど……。」自分でも変わったのかどうか微妙なくらいだ。毛先を整えて少しすいてもらったけれど、頭が軽くなったくらいの感覚しかない。
「……何かいつもと違うから。」えんまは首をかしげながら言った。かしげた首につられてえんまの髪がさらさらと流れる。湿気をものともしないのを少し羨ましく思った。俺の髪は雨の日だと寝癖のようにハネて、髪を伸ばし始めたのもそんな理由だったなと思い出す。
「えんまはなんで切ったの?」桃源に切られた後も普通に過ごしていたので、どんな理由なのか気になった。
「バランスが悪い状態に馴れられなくて。」俺がイマイチ飲み込めないと言う顔をしていると、えんまが追加説明をくれた。
「片腕がない人とかって、その人特有のバランスがあるじゃない。小さな差だけど髪にもそれがあって、私の場合重心がやや左側に偏ってたの。」桃源に髪を切られた後、えんまは髪を左側に結んでいたのでその事を言っているようだ。
「それを言ったらそのハチマキはどうなんだ?」えんまの巻いているハチマキは結び目が左側にきている。明らかに右より左の方が重いはずだ。
「これは昔からずっと巻いてたから今更外せなくて。」通常のバランスに馴れきる前の幼少期からハチマキを巻いていたことで、結び目が左側にきているバランスに馴れてしまったらしい。
「格好いいと思ってしてるのかと思ってた。」えんまは不本意そうに口を尖らせ、「格好いいと思ってない。」と言った。休日にもハチマキをしていたからよほど気に入っているのだろうと思っていたが、真相は違ったようだ。
「まぁ何にせよ、髪、似合ってる。」笑いながら言うとえんまは一層口を尖らせ、それから堪えきれずに笑った。
「ありがとう。カマギリも、似合ってる。」俺は大して変わってないので似合ってるも何もないと思うのだが、一応礼は言っておく。
「サンキュ。」「何ですかお二人さん、話聞いてれば~! 一緒に髪切っちゃって仲良しですか~?」言い終わる前に遮られた。
「別にそこま」「似合ってるなんて言い合っちゃって、お似合いなのは君らですよ~?」ででもない、またもや言い終わる前に遮られる。人の話遮り隊か、話の腰折り隊か所属はどっちだ。
「ほら、ホームルーム始まるぞ。」「またまた照れちゃって~!」遮られこそしなかったものの、にやにやとこちらを見てくる。チャイムが鳴ると、学級長の吉良の視線に気づいてか大人しく席についた。ナイスだ吉良。えんまの方を見ると、唇を固く引き結んで目はあらぬ方向を向いていた。

「えんま?」反応がない。ただの屍のようではないが、ただならぬ屍のようである。ちょっと心配だったが自分の席に戻った。後ろからえんまの頭を眺めるがピクリともしない。まもなく担任が教室に入ってきてホームルームを始めると、えんまがハッと意識を取り戻した。


何がなんだか。

 

三十四冊目fin.

テスト期間は、すごい筆進みます……。

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