歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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八月二十九日『プール』

 八月二十九日。晴れ。

 晴れた。
「ウーミ!」
「ダメだっつの。」
「ビニールプールなら納戸にあったと思うけど。」
「ビニルプル?」
「何言ってんだばあちゃん、そんなものはないよ。」
「まだボケてないわ。」
「いやいやいやだってそれ出すのも膨らますのも俺でしょどうせ!」
「ヒロちゃんは男前で本当に頼りになるなぁ。ほらヒノちゃんも。」
「ヒロちゃんは男前で本当に頼りになるなぁ。」
「棒読み何とかして!」
「そう言いながらも準備してくれるヒロちゃん大好きよぉ。はいヒノちゃん。」
「そう言いながらも準備してくれるヒロちゃん大好きよぉ。」
「くっそー!」
 後ろでやんややんや騒がれながら空気入れをマッハで踏む。祖母の台詞を棒読みでコピーしただけとはいえ、美少女に大好きだなんて言われて舞い上がらない男子中学生はいない。悔しいけど。すげえ悔しいけど!
 膨らんだビニールプールは直径二メートルほどの大き目のものだ。母がサイズを間違えて買って、実家では使えないからとこっちに持って来たんだったと思う。ホースを引っ張ってきて水をため始める。
「あら。穴開いてるわ。」
「ほんとだ。」
「デス?」
「ヒロちゃん、ガムテープ。」
「はいはい。」
 蛇口を締めていったん水を抜き、穴のまわりを拭いておく。ガムテープを探しに家へ入ると思ったより暗く、緑色の点が視界を飛び回る。
「布のやつねー。」
「わかってるよー。」
 片っ端から引き出しを開けて探す。紙のはあったが布のは見つからない。
「どこにあんのー。」
「なーんーどー。」
「……それ使えんの?」
 プールが入れてあった箱をどかして探しにかかる。ガムテープが入っていそうなところ。奥にちらっと見えている工具入れぐらいしか思い当たらない。足元に積まれた箱やらなんやらの間をつま先立ちですり抜けて、天井から下げてあったモビールに頭をぶつける。
「いってぇ……。」
 納戸にモビールを吊る意味が分からないが、こうやって頭をぶつけて邪魔だったから片づけたといったところだろう。うちの家系は背が高いほうだ。ようやく工具箱に辿り着き、中を検める。経年劣化が心配だったが新しく買ったものらしい。ベタベタにもパリパリにもなっていなかった。
「持ってきたー、よ。」
「ごめん、やっぱりいらなかった。」
「何なんだよ……。」
 ビニールプールは縁側に引っ掛けて干してあり、小さな桶にためた水に両足を突っ込んでいる彼女がにんまり笑っていた。
「プル楽しいのデス。」
「それはプールじゃない。」
 それはプールじゃない!
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