歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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八月十二日『宇宙船』

 八月十二日。半月。

「ずっと忘れてたけど。」
「何デス?」
「お前の宇宙船。」
「埋めてあることは知ってマス。正確にはあれは宇宙船ではありませんガ。」
「えっ、宇宙船じゃねーの?」
「あれ自体に推進力や機動力はないのデス、ただの器なのデス。」
「じゃあ宇宙船は?」
「逃げマシタ。」
「逃げ?」
 宇宙船が逃げる? 宇宙船に自由意思があるってことか? それは船か?
「もともと制御が難しい生物なのデスガ、大気圏突入直前に振り落とされマシタ。」
「え、何、振り落とされたって。馬かなんかなわけ……?」
「×××は馬というより兎に近いのデス。」
「うさ。」
「赤い兎みたいなものなのデス。ジャンプ力が強すぎて度々母星の重力圏外へ飛んでいく不思議生物なのデス。」
「それ、兎死なねえの?」
「兎も宇宙服を着てるのデス。食べ物があるかは謎デスガ、どこかを漂ってると思うのデス。」
「餓死するじゃん……。」
 今まで宇宙人に抱いていたイメージが一掃された気がする。高度な科学技術じゃなくて変な生き物。変な生き物に乗ってきた変な生き物。
「…………おい。」
「何デス。」
「お前じゃあ、どうやって帰るんだよ。」
 乗ってきた兎は、今頃宇宙の藻屑だ。
「さア?」
「はぁ?」
 わざとらしく首を傾げながら薄く貼り付けたような笑みを浮かべる。つられて引きつる唇をそのままに、意味が分からない、と呟く。
「嘘なのデス、ロケットかなんかにくっついて行くのデス。」
「ロケットなんてそうそう飛ばねえ、よ……と言いたいところだけど。」
 九月一日。火星探査機を乗せたロケットが飛ぶ。それも、この近くで。おあつらえ向きを通り越して仕組まれた必然を感じさせて気味が悪い。この機を逃せば次がいつになるかわからない。それまで彼女の存在を隠し通せるとは思えない。じっとりと背中を流れる嫌な汗を意識しないように努めるほどに気になる。
「ちゃんと帰れるといいな。」
「そうデスネ。」
 握りしめた拳に食い込む爪をどうすることもできなくて、いやに渇く喉を潤そうと水をあおった。
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