歪曲骨家。

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私立永遠星学園高等部生徒会資料35

三十五冊目
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肌寒い季節になってきた。そろそろマフラーの違和感も薄れてくれるだろう。授業中はさすがに椅子の背もたれに掛けたりしているが、そのまま席を立とうとしてマフラーが背中にくっついてきたときは焦った。耳はうまく隠せるのに、どうして尻尾はこんなに難しいんだろう。兄さんは変化がすごく上手だった。コツでも訊いておけばよかったと後悔する。兄さんは高校進学と同時に上京してしまったし、積極的に連絡を取り合う訳でもないから、大分疎遠になっていた。
久しぶりに兄さんにメールでもおくってみようと決意したところで、ちょうどチャイムが鳴る。今日の数学も暗号だらけでちんぷんかんぷんだった。冬休みが終わったら学年末考査がある、そしてそこで赤点を取れば留年という噂は聞いている。中学の内容すら怪しいのに、高校2年の数学で赤点を回避しろなどというのは無理難題もいいところだ。学年末考査では定期考査の時以上に、スケ部や生徒会の人々にお世話になりそうな予感がした。

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「星が綺麗だね。」隣を歩くえんまが白い息を吐きながらそう呟いた。
「そう……だな?」夜空を見上げると焦点の合わない光の粒がチラチラと瞬いている。目を擦ってみても結果は変わらない。相変わらずボケた光がそこにあるだけだ。
「疑問系?」えんまが訝しげにこちらを見る。意見に賛同されなかったのが不本意らしい。
「最近視力落ちてきたなって思ってさ。星もぼやけて見える。」
「そうなの。」
「えんまは視力良さそうだな。」
「ずっと2.0だよ。」
「すげえな。俺とお前じゃ、見えてる世界違うんだろうな。」
「そんなに変わるかな。」
「こういうのは失って初めて大切さに気付くんだよ。」
「カマギリ、詩人だ。」
「いや実際そう思うし。この夜空だってえんまが見てる方が綺麗なんだろうし。」
「小さい星はそうかもしれないけど、月なんかは綺麗に見えるでしょ?」
「まぁ、月くらい大きかったら見やすいけど。」
「今日の月、綺麗だよね。」
「おう。」返事をしながら何か引っ掛かったが、気のせいかと無視した。
「そういえば、えんま朝変じゃなかった?」別の引っ掛かりを訊いてみることにする。
「えっ、何か変だった?」
「変だったっていうか、ただならぬ屍みたいだった。」
「屍……?」
「反応すべきはそこじゃなくて……えーと、呼んでも返事がなかった、一瞬。」
「そうなの?」
「意図的じゃなかったのか。」
「うん。知らなかった。」
「1種のパニック状態か?」
「パニックになるようなことなんてあったかな。」
「んー、その前は髪切ったって話してただけだしな。」
「あ、カマギリもちょっと短くなったね。」まるで今気付いたかの様にえんまは言う。
「だからその話を朝してたんだって。」
「そうだっけ?」初めて聞いたとでも言う様にえんまは首をかしげた。
「そうだよ。んで『2人揃ってお似合いですね』やら言われて……。」
「……。」えんまが急に黙ったので隣を見ると、ただならぬ屍と化していた。
「おーい、えんまさーん。」顔の前で手を降ってみるが、反応はない。それなのに足は止まらずに歩き続けているのだから、奇妙なことこの上ない。今までこんなことはなかったから、少し不思議な気分だ。完璧の縁に謎めいた性質を見つけて面白くなってきた。明日には戻っているだろうから、あまり気にしなくてもいいかもしれない。一応別れの挨拶はしたが、やっぱり返事はなかった。

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「ぬぁー、空腹で死ぬ。」森が机に突っ伏しながら深々とため息をついた。
「さっきお昼食べたよね?」5限終了後、昼休みからまだ1時間ほどだ。
「太陽光が足りない……。」手の甲の気を窓の方に向けながら森は虚ろな目をこちらに向けた。森の席は窓側の一番後ろだ。直射日光には当たりやすい場所であるにも関わらず、あまり光合成状況が芳しくないらしい。
「夏は吐きそうだーって叫んでたし、森も案外大変なんだね。」森の机にキャンディを置きながら笑った。
「案外どころじゃない。」ありがとう、とキャンディを受け取った森は早速包みを開けて中身を口に放り込む。
「糖分、染み渡るー……。」森は普段は絶対にしない顔で、幸せそうに顔をほころばせた。よほど死活問題らしい。
「お弁当増やしてもらったら?」「ただでさえ教科書重いのに、これ以上荷物増やしたらそれこそ死ぬ。俺の肩が。」
「それもそうかー。でもキャンディくらいは入れといたら?」
「うん、そうする……。」キャンディの包みを捨てに森が席を立ったときに、冬眠したい、と口が動いたのを聴いた紙は少し笑った。

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自販機の一番上の列に鎮座しているイチゴミルク。なぜ一番下に置かない。イチゴミルクを買う年齢層は子供だろう。子供が押せない位置にボタンがあっては意味がない。
と、愚痴を呟きながら蛍は精一杯背伸びをしてボタンを押した。ガコンという音と共に紙パックが取り出し口まで短い旅をする。紙パックとお釣りを取り出して自販機の横のベンチに腰を下ろした。
「イチゴミルク? ちょっと意外。」逆光で声の主の顔はよく見えなかったが、髪を見れば間違うはずはない。生徒会長だった。
「余計なお世話。君こそアセロラ、似合わないよ。」会長が自販機から取り出したペットボトルを見て反論する。
アセロラうまいよ?」会話が成り立っている気がしない。しかもサラッと人の隣に座ってきた。
「とにかく、僕が何を飲もうと僕の勝手でしょ。」人に何を飲むか指図されるいわれはない。
「くぅ~、染み渡る~!」聞いちゃいないな。ストローに口をつけて、一気に飲み干す。パックを綺麗にたたんで、ごみ箱に投げ入れる。
「おー、この距離から入るのか。」見られていたことへの羞恥と、無事にシュートできていた安堵とがない交ぜになって押し寄せてきた。
「別に、普通だよ。」さっさとベンチをあとにする。会長は扱いにくくてならない。えんまもえんまで、よくこんなのと長続きしてるな、と時に感心する。
歩きながら少し振り向くと、会長がごみ箱に投げたペットボトルが、見事な空気抵抗により不時着していた。

三十五冊目fin.

お久しぶりです、2月の忙しさは異常でした。

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