歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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八月十一日『ソーダバー』

 八月十一日。猛暑日。

 顎から滴る汗を手の甲で拭って、陽炎に揺らめく砂利道を睨む。目を刺すような日差しはもちろん半袖から伸びる腕も容赦なく焼いて、じりじりと痛いくらいだ。祖母が玄関で渡してくれようとした日傘を断ったことを今更悔やむ。そもそもこんなに暑い日にお使いになんか出さないで欲しかった。それを言い出すときりがないのだけど。余った軍資金でアイスでも買いなさいとは言われたものの、帰路を思うとうんざりする。自転車があれば少しは風を感じられただろうに、分速八十メートルでは風どころか熱気がまとわりつくだけだ。
「ヒノさん暑くないんすか……。」
「母星よりはましなのデス。」
「あーーー、そうでしたね。」
「あれデス?」
「そう、あれ。まだ遠いなー……。」
 道端にぽつんと建つスーパーマーケットに目を向ける。店内は冷房が効いているだろうけど、そこまで走る元気も余裕も生憎持ち合わせてない。
「じゃあヒノは先に行って待ってるのデス。さっさと来るのデス。」
「え、ええー……。」
 軽々とスキップをしながら追い越される。色のない砂利道に跳ねる海色が映えて、見惚れて止まりそうになる足を必死で動かす。どんどん離されて、ついに彼女の足がスーパーマーケットの入り口を踏む。店内に入る前に、こちらを振り返ってにやりと笑う。
「ち、く、しょ、う!」
 浮かせた足を準備不足なまま踏み込んで、びりびりと痺れるのも気にしないで、全力でスタートダッシュを決める。砂利に足を取られて滑りそうになるのをすんでのところで堪えて、頭から突っ込むように入店する。
「いらっしゃいませー。」
「いらっしゃいますー。」
 レジに居合わせた店員に『は?』という顔で睨まれる。足元に滑り止めを利かせたら口が滑った。
「はやかったのデス。」
「はは、は、クソ疲れた、あちい。」
「情けないのデス。」
「うるせ、アイス買ってやんねーぞ。」
「お口チャックなのデス。」
 頼まれていた卵やら調味料やらと一緒に六十円のアイスを二本、カゴに放り込んで気まずさに耐えながらレジを通る。自動ドアが開くと冷房のベールはあっという間に溶けて、むわりと熱気に包まれる。申し訳程度の日陰に移動して、アイスを取り出す。
「ほれ。」
「ありがとうなのデス。」
 冷気を放つ水色のアイスバーに、贅沢に齧りつく。一気に冷えた血液が脳に回って軽く頭痛を催す。すぐさま垂れ落ちようとする雫を舌で受け止めながら、夏だなぁと思う。
「アイス先に食い終わった方が勝ちな。」
「もうヒノの勝ひなひょデス。」
 隣の彼女は残った木の棒を誇らしげに見せてくる。あたりの三文字が堂々と鎮座していた。
「じゃあもう一本な。」
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