歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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八月八日『眩暈』

 八月八日。薄曇り。

 望遠鏡を引っ張り出してきた。一年のうちに積もりに積もった埃を拭って、本来の色を取り戻す。艶消し加工がなされた濃紺のボディ。お年玉と小遣いをためて去年買ったものだ。実家には置くところがないから、ここの納戸に置かせてもらっている。
「何デス?」
「望遠鏡。星が大きく見えるんだよ。」
「ふム。」
「今日は天気もいいし雲も少ない。夜までもってくれればいいんだけどな。」
 手で庇を作りながら空を見上げる。日の光が目を焼いて、くしゃみが出る。
「へきしっ。」
「な、何デス、今のハ。」
「あ? くしゃみだよ。」
「クシャミン……。」
「何お前、くしゃみしねえの?」
「クシャミンがどういうものなのか説明できるのデス?」
「えー、ちょっと待てよ。なんか鼻とかに微粒子みたいなの入り込んで、それ排出するためにすんのがくしゃみじゃねえの?」
「それならヒノだってするのデス。今ヒロトはどうしてクシャミンをしたのデス。」
「眩しいからだろ。」
「眩しいとクシャミンするのデス?」
「しねえの?」
「しないのデス。」
「いやするだろ、ちょっと太陽見つめてみろよ。」
「わかったのデス。」
 言うなりじっと太陽を見据える。見ている。ずっと見ている。三十秒くらい経った。そろそろ止めた方がいい気がしてきた。太陽を見るのは目に良くない。
「……わっかた、もういい。」
「視界が緑色なのデス。」
 わざとらしくくわんくわんと揺れる。両肩を掴んで止める。
「お前は金星人だからくしゃみしないんだな、そうだろ。」
「知らないのデス。トウコさんにも訊いてみればいいのデス。」
 そして離すのデス、と肩にかけた手を叩き落とされる。叩き落とされた手をさすりながら、望遠鏡を屋根下に移動させる。祖母は昼食の用意をしているはずだ。

「ばあちゃん。」
「どうした、ヒロちゃん。」
「眩しいとくしゃみ出るよね?」
「眩しいと? んー、出ない気がするねぇ。」
「それ見ろなのデス。」
「嘘だろ、じゃあなんで俺は出るの……。」
「知らないのデス。トウコさん、今日のお昼は何デス?」
「今日は麻婆茄子だよ。」
「マボナース?」
「紫の野菜と挽肉のちょっと辛い、炒め物? 和え物? なんかそんな感じだよ。」
「楽しみなのデス。」
「そうだな。」
 祖母とヒノは気でも合うのか、多数決ではいつも俺が負ける。悔しいので眩しいと出るくしゃみについて調べてみたが、これは光くしゃみ反射というらしく、日本人の約二十五パーセントの人が持つ優性遺伝の反射らしい。やっぱり少数派だった。
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