歪曲骨家。

創作小説置き場です。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

八月六日『雨』

 八月六日。入道雲。

 連日のことながら今日もいい天気だ。ヒノを連れ立って畑に出る。いつものようにバケツプリンクラーに水をためて、疑似的な雨を降らせる。
「……それは何なのデス?」
「スプリンクラーだよ。野菜に水やってんの。」
「ふム。」
 腕を組みながらバケツプリンクラーを睨み、何か考え込むように顎に手をやる。そういう仕草は地球人と何も変わらないなぁと思った。カラーリングは天然の地球人のそれとはかけ離れているが。空と海色の髪が主張しあって目に眩しい。きらきらと輝くその髪を手に取ろうとして、もれなく透明な宇宙服に阻まれた。ぷよ、と伸ばした手が押し返される。
「何デス?」
「……何でもねえよ。」
 思わず顔を背けた先に大きな入道雲を見とめる。
「通り雨が来るな。」
「トリアーメ?」
「短時間に雨が降って止むってことだよ。」
「雨は初めて見マス。」
「……そっか、金星は上空で蒸発しちゃうもんな。」
 こくこくと高速で頷く。そんなに見たいのだろうか。玄関に座り込もうとする彼女を引き留める。
「まだ来ねえよ。」
「来るまで待つのデス。」
「洗濯物取り込むの手伝えよ。」
「……わかったのデス。」
 しぶしぶといった風についてくる。これで降らなかったらどういう反応をするんだろう。裏に回って、竿にかかった洗濯物を籠に放り投げていく。ちょうど正面に彼女を拾った草むらがあるが、あの日から特に変化はないようだ。いっぱいになった籠を窓から中に入れたとき、急に辺りが暗くなった。見上げた空は掻き曇っていて、来たな、と思う。間に合ってよかった。
「お待ちかねの雨だぞ。」
「これが雨デスカ。」
 ぽつぽつと、乾いた砂利が黒く濡れていく。なんとなく屋根の下から手を出して、手のひらに雨粒を受ける。彼女も真似をして手のひらを突き出す。宇宙服に弾かれたのか、ころころと空中を伝って地面に落ちた。それが面白かったようで屋根の下から出て走り回り始めた。次々と弾かれた雫が空中を舞って、不思議な光景が生まれる。その中心にたたずむ青い少女は、まるで初めからそこにあったかのような一体感と共に、一枚の画として空間に溶け込む。
「ヒロト。」
「何だよ。」
「上で誰かがスプリンクラーを回してるのデス?」
 頭上を指差しながら問いかける彼女は冗談のつもりだったのだろうけど。
「そうかもな。」
 そんな考え方もあっていいかもな、と思った。
スポンサーサイト

Comment

Add your comment

Latest

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。