歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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八月五日『宇宙服』

 八月五日。ビニールの雨合羽。

「お中元で届いたゼリー、とっておいたから今日のおやつにね。」
「年一でしか食べられない、ちょっとお高いゼリーだ!」
 想像しただけで唾液があふれる。甘党とまではいかないが甘いものは好きだ。
「ゼーリとは何デス?」
「お前の宇宙服みたいなぷるぷるのお菓子だよ。」
 これを聞いた彼女は若干眉根を寄せた。作戦通り。
「心配せずとも俺がお前の分まで食ってやる。」
「……イエ、ヒノにはあらゆる地球食を毒見するという任務ガ。」
 日本の辺境で『あらゆる地球食』が手に入るとは到底思えないがな。とにかく作戦は失敗してしまったようだ。
「……そうだった、ごめんねぇ。」
「どうしたの、ばあちゃん。」
「その、ゼリー、ひとつしかないのよ。」
 おいしくってつい、ヒロちゃんの分あればいいかと思って、と祖母は照れ笑いする。
「えっ!」
 思わずヒノと顔を見合わせる。まろ眉が強気に吊り上がった。
「お前は毒見目当てだからひと口でいいよな。」
「ヒロトこそ毎年食べているならヒノに譲るべきなのデス。」
「仲良く半分こね。」
 ゼリーを取りに祖母が席を立つ。それぞれスプーンを持ち、ゼリーの登場を待つ。その間も睨みあうことを忘れない。やがて祖母が冷えたゼリーを手に戻ってくる。
「これだよこれ……。」
 スリムなガラスのカップに注がれたアクアブルー。それも一色ではなくて、ミルキー、マリン、スカイ、三色のゼリーが混ざり合って絶妙なコントラストを描く。上部には透明なクラッシュゼリーが散らされ、生クリームとミントが飾られている。目にも涼しい逸品だ。
「いただきます!」
「いただきマス。」
 同時に両側からゼリーをすくう。真ん中でスプーンがぶつかり、持ち上がったゼリーは見事にひと欠片にくっついていて。
「これは俺が。」
「ヒノガ。」
 言い争っているうちに器に着陸してしまったので大人しく半分に分ける。
「最初からこうすればよかったじゃん。」
「先に喧嘩ふっかけてきたのはそっちなのデス。」
 ようやくゼリーを口に運ぶ。柑橘系のさわやかな酸味が広がり、柔らかな涼感が舌の上で踊る。ほろほろと解けるように喉まで流れていき、あっという間にひと口目が終わってしまう。ふた口目にスプーンを伸ばす前に、ヒノの様子をうかがう。あわよくば残りを全部戴きたい。彼女はスプーンをくわえたまま固まっていた。
「ヒノ?」
「……美味しいのデス。」
「その割にテンション低いな。」
「見ての通り放心しているのデス、察しろデス。」
 自覚のある放心は放心か? まぁ細かいことはいいとして、きっかり半分食べてから器を彼女の方へ押しやる。
「そういえばお前の宇宙服ってどうなってんの?」
「……透明な膜なのデス。選択的透過性を持つ半透膜、動くものは弾き、動かないものは通すのデス。」
「じゃあ俺も止まってれば入れるわけ?」
「心臓の拍動も止めれば可能なのデス。」
 実質無理じゃん。死んじゃうよ。
「分子運動とかはどうなんの?」
「この宇宙服は微生物の集合体なのデス。だから分子運動を計測することは不可能なのデス。」
「ふーん。」
 星が違えば宇宙服もこんなに違うのかと驚く。地球の宇宙服は計器やら冷却器やらボンベやら色々ついている印象だ。
「ほんとに宇宙人なんだなぁ。」
「まだ疑っていたデスカ。」
「いや、疑ってたんじゃなくて再認識したんだよ。」
「ならいいのデス。」
 そう言った彼女は、結露し始めたカップを手に取って残りのゼリーを食べ始めた。
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