歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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八月三日『氷』

 八月三日。時々雪。

「宇宙人って地球食でいいの?」
「それを調べるために食べるのではないデスカ。」
「なるほど。」
 昼食は素麺だ。俺が小さいころは、亡き祖父裏山から竹を切ってきて流し素麺台をこさえてくれたものだけど。氷水に浸かった麺をすくい取りながら、ちらりと隣を見やる。ヒノは氷をひたすら口に入れていた。
「……おい。」
「なんれふ。」
「それは食いもんじゃないっていうか、いや食っても問題はないけど、とりあえずこの料理のメインは白い細長いやつなわけ。」
「そうなのデス?」
「その茶色の液体に浸けて食うの。黄色で細長いやつとか緑で細長いやつとかを上にのせて食うの。」
「ふム。」
 いちいち自分の器で手本を示してやりながら素麺の食べ方を説明する。彼女?はたどたどしく箸を使いながら何とか最初の一口に辿り着く。リスみたいに頬を膨らませて咀嚼している。やがて大げさな動作で飲み込んだ。
「ヒノはさっきの透明で冷たいやつの方がスキーなのデス。」
「あっそ……。」
「おやつはかき氷がいいかしらねぇ。」
「カキーンゴリー?」
「透明で冷たいやつを砕いたやつだよ。」
「ほほー、楽しみなのデス!」
 見るからにテンションを上げて氷を口に入れ始める。
「だから食うなっつの。ぬるくなるだろ。」
「さっさと食べればいい話デス。」
「んにゃろ……!」
「ヒノちゃん、後でまた食べられるからもうお止し。ヒロちゃんはすぐ突っかからない。」
「はいなのデス。」
「お前、ばあちゃんの言うことは聞くのかよ。」
「ヒロちゃん。」
「はいはい。」
「後でかき氷器探してきてくれる? 納戸にあると思うから。」
「はーい。」
「ヒノちゃんも一緒にね。」
「はいなのデス。」
「ひとりで探せる……。」
「ついでに色々案内してあげてね。」
「はいはいはい……。」
 食べ終えた器を流しに持っていく途中で彼女?と目が合う。妙に整った顔立ちに腹が立つ。どうせ中身はクリーチャー系なんだろ。
「待つのデス。」
「なんだよ。」
「ヒノももう少しで食べ終わるのデス。」
「……はやくしろよ。」
 両手に食器を抱えたまま柱に寄りかかって、彼女?が氷を殲滅するのを眺める。腹でも壊せばいいのに。
「待たせたのデス。」
 並んで台所まで向かう。水で流してから、水を張った桶に浸ける。後ろに立っていた彼女?も同じようにする。
「かき氷器探しに行くぞ。」
「わかってるデス。」
「お前はいちいち癇に障る言い方……。」
「ヒノ。」
「は?」
「お前じゃないのデス。」
 暗に名前で呼べと言っている。しかしただ言われっぱなしで屈する俺ではない。
「……お前って女?」
「外見操作は地球人の女をモデルにしてるデス。」
「中身の話だよ。」
「ヒノの精神的性別の話デスカ? それなら×××なのデス。」
 またしても獣の咆哮っぽい何かだった。お国の言葉ってやつかもしれない。正確にはお星の言葉か。何にせよ聞き取れないので、女として捉えることにした。
 廊下の電灯を点けて、奥にある扉まで進む。木製の引き戸はやはり年季が入っていて、取手が若干ささくれている。手を傷つけないように気を付けながら扉を開け、埃っぽい中を見渡す。この中のどこかにあるはずだ。
「去年はどこに仕舞ったんだっけな。」
「ヒロト。」
「確か食器類と一緒に……。」
「ヒロト。」
「……違うな。じゃあそっちの棚か。」
「ヒロト。」
「おかしいな。この辺に入れたと思ったんだけど。」
「ヒロト。」
「何なんだよさっきから。」
「あれじゃないのデス?」
「え?」
 ヒノの小さな手が指差す先には確かに箱に入ったかき氷器があった。
「なんで……。」
「トウコさんが出し入れしやすい高さにあるそれらしい物はここにしかないのデス。」
「……。ありがとな。」
「礼には及ばないのデス。」
 棚からかき氷器を取り出して、箱のまま居間まで持って行く。祖母は器を用意して待っていた。かき氷器を組み立てながら、そういえば、と疑問を口にする。
「シロップってあるの?」
「去年浸けた梅シロップなら。」
「シロープとはどういうものなのデス?」
「甘い液体だよ。」
「ほウ。」
「はい、氷。」
「ありがとう。ほらヒノ、お前が回せ。」
「わかったのデス。」
 氷を入れたかき氷器を彼女の前に引き寄せる。ハンドルを持ってゆっくりと回し始める。ひっかかりながら低速で回り続ける。ついにはハンドルから手を離して、俺の方へ押し付けてきた。
「非力め。」
 ガリゴリと氷を粉砕しながら悪態を吐く。お前が食べたいっていうから作ってんだろ。まあ俺も食べたいけどな!
「できたぞ。」
 サービスでシロップまでかけてから渡してやる。受け取るとすぐさまスプーンを突き刺して山を崩し、採掘した氷を舌の上で溶かす。溶ける前に自分の分も作って、涼を得る。
「美味しいのデス!」
「よかったな。」
 もともときらきらな眼をさらに輝かせて、黄緑色のかき氷を頬張る。その横顔があんまりにも普通の女の子みたいで可愛いので、腹でも壊せばいいと思った。
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