歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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七月三十一日『プロローグ』

 七月三十一日。晴れ。

 毎年そうしているように、片田舎の祖母の家へ向かう。一日に数本しかないバスを逃さないために制服のまま、旅行鞄を担いで走る。捲っていたズボンの裾が元通りになっても気にしない。前髪を留めていたピンが外れたのは気にして、速度を落としながら留め直す。滴る汗と容赦ない日差しに今年もまた夏を感じて、アイス食いてえ、とひとりごちる。祖母の家に着いたら何か冷たいものを出してもらおう。俺は民宿を営む祖母の家へ毎年夏休みに、手伝いを兼ねて遊びに来ることにしている。民宿はお世辞にも儲かっているとは言いづらく、そのおかげで俺が部屋を借りられるわけだが、少し複雑だ。
「美青峠行発車いたします。ご乗車の方はお急ぎください。」
「あー、乗ります!」
 平仮名で『みおとうげ』と書かれた車体めがけて走る。この路線専用の車体のようで、かなり年季が入っている。段差の大きいステップに飛び乗って、ほっと息を吐く。色褪せたシートに腰かける人影はなく、車内には運転手の声だけが響く。祖母の家はバスの終点である美青峠からさらに少し歩いたところだ。運が良ければバス停に放置自転車がある。少し前に捨てられていたものだが、軽く修理をして使えるようにし、バス停の利用者の間で自由に使うことにしたのだ。
「今年もたくさん晴れるといいなぁ。」
 せっかくの夏休みにわざわざこんな田舎まで出てくるのには理由がある。生家は街の方にあるのだが、そこは夜も明るい。星が見えない。
 そう、何を隠そう俺は星を見るためにここまで来ているのだ。学校の奴らには絶対に内緒だけど。星が好きだなんてバレたら、ロマンチストだのなんだの陰口をたたかれるのが目に見えている。
「星の良さがわかんねえお前らなんて眼中にないっての。」
 宇宙は未知のプールだ。ひとつひとつ目印に浮きをつけて、星空が出来上がる。名付けは未知と知の区切り。
「俺も星に名前付けてえなぁ。」
 窓の外を流れていく色が、灰色から緑へと変わっていく。冷房の入らない車内は蒸し暑く、開け放たれた窓からは噎せ返るような青臭さだけが吹き込む。
「次は、終点美青峠、終点美青峠。お降りのお客様はお近くの降車ボタンにてお知らせください。」
 そっと頭上のボタンを押して、窓に頭をもたせかける。
「夏休みが、始まる。」
 運賃箱に小銭を投げ込んで、軽快にステップを飛び降りる。右足が先か左足が先か、はたまた両足同時なのか。一瞬先のことさえわからないのだから、明日何が起こるのかなんて今わかるはずがない。
「未知だ。」
 自転車はなかったから、祖母の家まで走ることにした。
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