歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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私立永遠星学園高等部生徒会資料37

三十七冊目
□■□■□■□■□■

小さい頃、えんまがまだ千華だった頃、千華はいつも僕の後ろについてきていた。そ
の頃はまだ僕の方が背が高かった。僕と千華は毎日一緒に遊んだ。楽しいことしかな
かった。

いつしか千華は僕より背が高くなった。それでもまだ走るのは僕の方が速かった。僕
は千華の前に立って歩けていた。千華は僕に追い付こうと、走る練習を始めた。僕は
その時から少しずつ千華と遊ばなくなった。

しばらくすると千華は僕より足が速くなった。それでもまだ頭は僕の方が良かった。
僕は千華と並んで歩けていた。千華は僕を追い抜こうと、たくさん勉強するようにな
った。僕はもう千華と遊ばなくなった。

そのうち千華は僕より頭が良くなった。僕にはもう何もなかった。僕は千華の後ろに
ついて歩くしかなかった。千華は時々後ろを振り返って、僕がついてきているか確か
めるようになった。僕は千華といるのが辛くなった。

やがて千華はえんまになった。僕はえんまの影武者になった。僕はえんまの代わりを
勤めるだけになった。えんまはだんだん僕から遠ざかって、振り返ることもしなくな
った。僕はえんまが自分を縛っているように思えてならなかった。

僕はどう足掻いてもえんまに勝てない。えんまの前を歩けない。えんまの背中を追う
ことしかできない。せめてえんまと並んで歩いていたかった。でももうえんまはあん
なにも遠い。

僕にはもう何もなかった。


□■□■□■□■□■
躯持には異名があることを、躯持本人も知っていた。泉 白水の異名は『泉人』。可愛
さの欠片もないこの異名を、わたしはとても嫌っている。好きで異能者になった訳じ
ゃないのに、あまつさえ異名が可愛くないなんてあんまりだった。
噂では、御食の異名は『御狐(みこ)』に決まったらしい。定員オーバーで生徒会には
入れなかったものの、スケ部の新たな戦力として注目を集めてはいるという。それは
さておき、異名の可愛さの差。『御狐』なんて響きも巫女さんで可愛ければ漢字も可
愛い。お狐様って意味も可愛い。
それに比べてわたしの異名ときたら、響きは爺さんだし漢字だってそのまんまだし、
意味も泉の人なんて適当丸出し。つけた人は上手いこと言った、ぐらいにしか思って
ないんだろうけど、その名前で呼ばれる側としては何とも言えない。
異名じゃなくても、えんまが髪を切ってからというもの、後ろ姿が似ているとかでよ
く間違えられるし。似合ってはいるけど、こっちとしてはいい迷惑だった。

ほんと、ついてない。

□■□■□■□■□■
生徒会とスケ部の合同合宿と言うのが、年に一度ある。誰が作ったイベントかは知ら
ないが、特に何をするでもなく、ただ遊んで帰るというだけのイベントだ。今年は冬
休みに合宿があるので、その話を少しして今日の生徒会は終わった。日が落ちてすっ
かり暗くなった帰り道を歩く。例のごとくえんまと一緒だった。
「ビラやめる気になったか?」朝のこともあったので釘を刺しておく。
「ビラじゃなかったらいいの?」
「宣伝活動自体が禁止!」
「私、宣伝するために学校来てるのに。」
「へーへー、ご苦労なこった。」
「ちょっとは同情してくれないの?」
「だって宣伝してるお前、すげえ楽しそうだもん。」
「ばれたか。」
「会長の目は誤魔化せません。」
「じゃあコスプレはやめるね。」
「ビラもやめなさい。」
「もう少しでノルマ達成だから、だめ?」
「だーめーでーすー。」
「じゃあカマギリの見てるとこではやめる。」
「見てないところでやる宣言か。」
「しょうがないじゃん。」
「本当にしょうがないですね。貴方方がここで消えるのも実に仕方ないことです。」
突然割り込んできた声に身構える。声は前方からしたように思えたが、目の前には誰
もいない。
「嗚呼、非常に残念ですね。」鞄が何かに釣り上げられる。そのまま引っ張られそう
になり、慌てて鞄を放す。その間にえんまは走り、虚空を蹴る。何かに当たる音がす
る。砂が積もるように、女が現れた。
「案外、出来る雑魚のようですね。」女はえんまの踵を手のひらで受け止めていた。
えんまはその手を踏み台に、女と距離をとる。
「私の名は那由多。雑魚な貴方方を葬る者です。」女、那由多は両手を広げて笑った

「ご丁寧にどうも。」上着を脱いで隣家の塀に掛ける。今度は土埃程度じゃ済まなさ
そうだ。
えんまと同時に走り出す。那由多は何かを手繰り寄せるような仕草をすると、いつの
間にかその手に鎖が収まっていた。えんまが蹴りを繰り出す間、鎖を引いて相手のバ
ランスを崩そうとする。鎖を引くと、その重さに面食らって自分の方がバランスを崩
しそうになる。鎖の先に何か重りがついているようだが、何も見えない。一旦鎖から
手を離して那由多から距離をとる。えんまは那由多の背後から蹴りを放つが、那由多
が鎖を引くと鈍い音がして、弾き返される。えんまが足を引きずりながら戻ってきた

「もう終わりですか、さすが雑魚といったところですね。」那由多はジャラジャラと
鎖を手繰り寄せる。その先には錨がついていた。
「だから嫌だったんですよ。双子を連れてくるのは。こうやってすぐに終わってしま
うから。」那由多が錨をくるくると回し始める。
「いつ終わったって?」えんまを置いて走る。那由多が鎖を持っているうちは、両手
が塞がって防御が出来ないはずだ。
「もう終わってます。だって貴方方はまだ私の能力を知らないから。」那由多は錨が
前に向いたとたんに左手を放す。向かってきた錨を避けようと左に跳ぶ。
「ぐっ!?」左脇腹に何かが当たる。錨は俺の右側で地面に落ちた。
「ほら。」那由多は鎖を引いて錨を手元に寄せ、また回し始める。「貴方方の劣勢は
目に見えています。」えんまが跳ぶ。那由多の左手に踵落としをきめるが、錨は速度
を失わなかった。えんまは着地の姿勢が安定しない。那由多は右手を引く。えんまは
後ろに跳んで避ける。錨は隣家の塀を抉った。
「雑魚にしては上出来です。」那由多は塀から錨を引き抜いて、また回し始める。俺
は抉られた塀を見た。向かって左側の塀。那由多は左手に錨に近い鎖を持っている。
俺の右側で落ちた錨。左脇腹にきた衝撃。
「えんま、鏡だ!!」左脇腹を押さえながら叫ぶ。えんまは後ろに跳んだ時から分かっ
ていたのだろう。今度は那由多の右手を狙う。
「ばれてしまいましたか。雑魚の癖に、生意気ですね。」那由多は左手を放す。俺は
また左側に跳ぶ。
「馬鹿ですか?」那由多は勝ち誇ったように笑う。俺は手を突き出して、飛んでくる
錨を受け止める。両手のひらに鈍い痛みが走り、肘が自然に曲がった。3歩だけ後ず
さって錨の勢いを殺す。追い付いた鎖がジャラジャラと足の上に落ちる。錨を片手で
支え、鎖を手繰り寄せる。那由多が慌てて鎖を引くが、生憎と重りはこちらにある。
バランスを崩した那由多に、えんまが頭突きする。
「あんた、『方舟』でしょ。さっき言ってた双子ってのは仲間?」
「……雑魚に……話すことは、ありません。」那由多は頭が痛むようで、地面に伏し
たまま答える。
「雑魚に負けたあんたは超雑魚ってことになるけどいいの?」俺は錨に鎖を巻き付け
ながら、えんまを見守る。それにしても、錨が思った以上に重い。
「私は、雑魚じゃ……。」言いかけた那由多が、砂が風に飛ばされるように消える。
「双子は運搬役かな。」
「じゃあこれは、双子の能力?」
「可能性は高い。」
「まだ近くにいるかも。」
「向こうが何もしてこないなら、無理に探す必要はない。」
「けど、」
「こっちも怪我してるし、不利になるようなことはしない方がいい。」
「そっか。足は大丈夫?」まだ足を引きずっているえんまに訊く。
「何とか。ちょっと衝撃に耐えきれなかっただけ。」
「荷物持とうか。」
「平気。カマギリも脇腹大丈夫?」
「俺は大丈夫。」本当はまだ痛かったが、強がって言わなかった。
「よかった。」えんまはほっとしたように笑った。自分の怪我の方が遥かに痛いだろ
うに、人の心配を出来るのは素直にすごいと思うが、逆に行き過ぎだとも思う。
「もっと自分、大事にしろよ。」言いながら上着を着て、鞄を二つ拾う。
「……ごめん、ありがと。」歩き出してもえんまが追い付く気配はない。振り返ると
えんまは膝をついていた。
「全然大丈夫じゃねぇじゃんかっ……!」座り込むえんまに駆け寄り、鞄を持たせる。
「ほら、手。」
「え、ちょ、待って。」
「何だよ。」
「抱っこなの? おぶるんじゃなくて?」
「おぶったら鞄持てねぇだろ。」
「そ、そっか。じゃあ、お願い、します……。」
「お願いされた。」えんまに鞄を抱えてもらって、肩と膝の下に手を回す。そのまま
立ち上がると少し腰にきたが、歩けないほどではない。
「……重くない?」
「羽のように軽い。」
「……ありがと。」それから家につくまで、二人して一言も発しなかった。時々立っ
ている街灯が、視線の噛み合わない二人を照らす。
日が短くなったなぁ、とそんなことばかり考えていた。

 

三十七冊目fin.

雨の日は筆が進みます……楽しい。

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