歪曲骨家。

創作小説置き場です。

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ひだまりの部屋で 3/3

■□■□■□■□■□
真莉さんは案外すぐに起きた。
「ん……。」
「あ、起きた?」
「おはよう……。膝枕してたの?」
「んー。なんとなくね。」
「足痺れてない? 重くなかった?」
「大丈夫、大丈夫。」
「もう、外暗いね。帰る?」
「そうしようかな。」
言うなり彼女は立ち上がって、手櫛で髪を整える。ちょっと寝癖がついていた。私も、実は痺れている足を引きずりながら立ち上がった。玄関までの道程は短くて、あっという間だ。ドアを開けて待っている彼女の横をすり抜けて、外に出る。彼女がドアを閉めるのを見届けてから今度は長い道程を歩き出した。その間ずっとお互いに無言で、でも居心地の悪い無言ではなかった。終着点のエレベーターに乗り込むと、彼女が少しだけ寂しそうな顔をした。
「また来るから。」
「……うん。」
そう言って彼女の髪を撫でる。寝癖がピコンとなった。その手を離すのが切なく思えるほどには、彼女に毒されているようだ。

■□■□■□■□■□
次の朝起きると、ポストに大家からの手紙が入っていた。
「大家さんからとは珍しいな。」
「『新しい夫婦の入居が決まりました。』」
「『再来週までに荷物をまとめておいてください。』」
「『明日から雇いのハウスキーパーさんを入れるので、仕事の方は心配しなくていいです。』」
「今か……今来ちゃうか……荷物はいくらでもまとめるけど行くところがない……。どうしよう……。」
震える手で便箋を封筒に戻す。幸いまとめる荷物は少ない。ネットカフェに持ち込めるかは微妙だが、ビジネスホテルなら泊めてくれそうだ。今まで真面目に家探しをしていなかった過去の自分を責める。何がピンと来る物件だ、住めれば何でもいい!
「とりあえず、目玉焼き食べよ……。」
荷物をまとめるのはそれからだ。大半のものは処分して仕舞えばいいし、かさばるのは仕事道具くらいだ。半ば無意識に焼いた目玉焼きは、裏がパリパリになっていた。
「こんな時すぐに相談できるような友達が。」
「私にはなんと、真莉さんくらいしか居ない。」
という訳で手紙を書いてみることにした。つい先日行ったばかりなのに、まだ手紙でやり取りをしていることが滑稽にも思える。書き終えた手紙を投函しに行き、ポストを前にして思う。
「真莉さんはイラストレーターなんだから、今家に居てもおかしくない。」
エレベーターで3階に登って、試しにチャイムを鳴らしてみた。
「はい?」
「庵です。」
「えっ、どうしたの急に。今開けるね。」
「ごめん、ありがとう。」
程なくして扉が開いた。彼女は仕事中だったのか、眼鏡をかけている。少しだけいつもと雰囲気が違った。
「今日も何もないけど。」
「真莉さんが居るだけでいいよ。」
「ちょっと……どう意味で言った? 今。」
彼女はなぜか俯いた。俯いた拍子に眼鏡がずれてしまっている。彼女が俯くポイントはたまによく分からない。
「相談にのって欲しい。」
「……いいけど、何の?」
「再来週、家がなくなる。」
「……えっ!?」
「特別に貸してもらってたんだけど、契約が切れる。」
「新しい家は……?」
「ないから困ってるの……。」
真莉さんは軽く俯きながら顎に手をあてて考え込む姿勢をとる。私の表情から悲壮感を読み取ってくれたのか、彼女なりに考えてくれているようだ。
「……じゃあ、ここ、住む?」
「無理無理、家賃お高いでしょ?」
「そうじゃなくて、その……。」
「違うの?」
「この部屋、に……住む?」
言い切ったか言い終わらないかのうちに彼女は盛大に俯いてしまった。頭が小刻みに震えている。覗く耳は今までにないくらい真っ赤だ。私は思わずキョトンとしてしまった。
「………………えっと、いいの?」
「…………嫌?」
「そんなことないけど、ないんだけどさ……? でも……。」
「でも何。……嫌ならそう言って。」
「ちょっと、何拗ねてるの。嫌じゃないって。」
「嘘、何が不満なの?」
「不満なんてないから、顔上げてよ。」
「嫌。」
「どうして、ねぇ。」
「嫌。」
「……真莉。」
床についていた彼女の手に自分の手を重ねる。彼女の手はひどく冷たい。
「聞いて。」
「嫌。聞かない。」
重ねた手に力を込める。彼女は抵抗するように少し手を引く。
「じゃあ勝手に言うけど、私は真莉みたいに料理出来ないし、家賃だって半分払えるか怪しいし。」
「やめて。」
「何より真莉が本当に私といて幸せなのか分からない。」
「っ……。」
彼女は顔を上げかけて、眼鏡を外し顔を拭う。拭った後もなかなか顔を上げない。私は重ねていた手を離した。彼女の手が弱々しく私の手を捕まえる。それからまた何回か顔を拭う。それでも彼女は顔を上げない。私はそっと彼女を抱き寄せた。
「……ごめん。」
「…………嫌。許さない。」
「…………ごめん。」
「……そんな事言われなきゃ分からない。」
「ごめん、真莉。」
「全部言って、考えてる事全部。」
「真莉、ごめん。……幸せ?」
「幸せだよ。私がどれだけ庵の事想ってるか知らないでしょ。」
「うん。真莉も言ってくれたら分かるよ。」
「私の悩みも聞いてくれる?」
「うん。」
「……苗字ちょうだい。」
「ひだまり?」
「……だめ?」
「似合ってるよ。」
やっと顔を上げた彼女は、太陽の笑みを浮かべていた。

■□■□■□■□■□
引越し当日、真莉も手伝いに来てくれた。一度は断ったが、彼女は彼女で引かなかった。
「段ボールひとつなの?」
「うん、だからいいって言ったのに。」
「……どうせ両手塞がってドア開けられないんでしょ。」
「それもそうか。」
「引越しに段ボールひとつって、庵は遊牧民族なの?」
「前の生活に未練がないだけ。」
「……そう言う事サラッと言う。」
彼女はドアを開けながら俯く。心なしか口元が笑っている。私はそんな彼女の髪を撫でようとして、段ボールを抱えている事を思い出した。
「目の前に頭があるのに撫でられない……。」
「何? 撫でたいの?」
真莉が私の手に頭をぐりぐり押し付けてくる。くすぐったくて段ボールを取り落としそうになる。
「真莉のそういうとこ好き。」
「……またサラッと言う!」
彼女は頭を離してさらに俯いてしまった。いつになったら顔を上げて照れてくれるんだろう。
「着いたら表札、緋田真莉にしようか。」
「庵も書こうよ。」
「結婚しましたーって?」
「だから、もう……!」
エレベーターにふたりで乗るのは初めてだ。ひとりで乗るのとは違う新鮮な感覚にわくわくする。彼女の家に入ると、いつもの部屋が綺麗に片付けられていた。
「ここ、使っていいの?」
「特別な部屋だもん。」
段ボールを隅の方に置く。開封はまた後だ。どうせ仕事道具くらいしか入っていない。窓を開けて、風の当たる位置に座る。
「真莉。」
「何?」
「ありがと。」
隣に座った彼女の髪を撫でる。柔らかく透き通るそれは、私を虜にするには充分すぎるくらいだった。私を見上げる彼女の前髪をかき上げる。露になった彼女の額に、そっと口付けた。
「なっ……!」
「ささやかなお礼。」
彼女は、やっぱり勢いよく俯いてしまった。照れた顔が見られるまでの道程は長そうだ。開け放たれた窓からの風が心地いい。私は静かに、彼女がこの窓から見ていた景色と、時間を思った。そして、これから流れていく時間を思った。彼女の手を取り、握る。その冷たさはじんわりと染みていくようだ。彼女は少しだけ不本意そうに応える。
「……好き。」
「ばか。」
俯く彼女の耳は赤い。そんなところがあの兎みたいだと思った。

fin.

 

どうもすいませんでした、テスト前です。

個人的に楽しかったです。

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